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Posted by naturum at

2024年02月09日

【野遊びとは、トランス状態にいざなうものなのか】






静かだ。

とても静かだ。

営地に立っているのは自分一人。

遠く半原山の尾根近くではピーヒョロロと鳴きながら悠々と旋回するトンビ。

山あいの北斜面は白く彩られ、降った雪の多さを感じさせた。

いつもの鷺が水中を睨みながら、水面50cmの低空飛行。

メシにはありつけたかな。

雲は幾重にも重なり、時折日差しを隠す。

気温9度。




一体にして、今、時は流れているのだろうか。























風も止むと、目の前のススキの横揺れは収まった。

動くはせせらぎの白波ばかり。

波頭で湧き立つ泡をしばらく見惚れていた。

そうだ、幕を建てよう。





























エコなんちゃらや省エネなんちゃらと謳ったクルマのリアウィンドウのステッカー、これが前々から嫌だった。

もうちょいデザインを考えて欲しい。

これらステッカーが貼られることを前提としたクルマのデザインではないからだ。

自宅でドライヤーとスクレイパーでこそぎ落とした。

やはりシンプルな方が好みだ。





















ランタンを持ち出すと、先ずはメンテ。

空気孔が多く、少しでも風が強いと消えてしまうレイルロードランタン。

新しいビニールテープで再度巻き直す。
























大雪警報に関東地方が揺れた日。

高速道は早々と通行止となり、同僚からは苦情たらたらだった。

営地へ向かうR246。

大山や遠く道志の山並みには薄らと雪化粧が望めた。






























焚き火の焔を見つめていると、同じく刻の流れは止まる。

風の入り方、風向き、薪のくべ方、そうした火を絶やさずにおきたいという思いが、観察、工夫を呼ぶ。



他のものが見えなくなり、集中する。


そのうちに耳からの音もなくなる。



風がある時は、その向きに薪の隙間を作ると火吹き棒の出番もなし。

そして少量の薪で十分な暖を得る。

風が無い時は、薪と薪とを少しの間隔をもって並列に組み、火と火を互いに呼び込むように組む。

どちらかの焔が消えても、また相方から焔のきっかけをもらえる。

橙色の焔の揺れは何故これほどまでに魅力的なのであろうか。

気がつくと1時間が軽く経っていた。

























酒も相当に入っている。

焔のうつろいと酒の効果で、軽いトランス状態に落ちている自分に気づく。

自然の中で暮らす醍醐味もあれば、焚き火の焔と酒で酔う夜もある。





見上げると、この地にしては珍しいくらいの星が瞬いていた。

カシオペア座にオリオン座、冬の大三角に北極星…。

あとは勉強不足にて分からず。

大気を洗浄してくれたのは、あれほど忌み嫌っていた雪や雨だった。

























夕方、シュフのシェフのクルマが営地へ静々と入ってきた。

幕横に停めて、先ずは挨拶。

そして今夜のご馳走、「おでん」を幕内へと運び入れる。

テーブルでは餅巾着の仕込み。

小さなジップロックに楊枝が整然と収まっていた。




もしかしてA型でしょ⁉︎

「典型的なO型!」

なぬっ、儂と同じだと⁉︎

自分には微塵もない几帳面さに目を丸くした。


















別のジップロックには出汁がたぷんたぷんと。

具材と出汁はザルで分けたの?

「いいえ、菜箸で一つずつw 具材が崩れるでしょ」

やはりA型ではないのか。

自分なら下にボウルを置いたザルで漉しそう。

見事に具材がボロボロになって泣きを見るのだろうが。

ちくわぶだか大根だか分からんようになっとる!





















初めてかもしれない。

厚揚げやさつま揚げ等の練り物がこれほど旨いと思ったのは。

「練り物が魚の旨味を出して、今度は出汁を吸ってくれるの」

ほほー、毛細血管現象か⁉︎

いや、見当違いだろうな。

そしてすじ、昆布、牛すじ串、はんぺん、等々を一つずつ口に運ぶ度に唸った。

ぐぬぬっ、適切な言葉が浮かばぬが、とてつもなく旨い!


















久しぶりに連休を取ると、営地に連泊したくなる。

寝て起きて撤収、という算段から逃れられるのも大きいし、中日の夜明け前から麦酒をプシュッとできることもある。



そんな中日を過ごしていると、ふと「なんだろう、この感覚…」と感じる時が訪れるのだ。



設営してその日を愉しんだ翌朝、朝メシをかっこんだ辺りから不思議な心持ちになリ始める。

刻の流れがゆったりなのもそうさせるのだろう。






俺は都会で仕事をしている奴なのか。

それとも自然の中で時に翻弄されながらも生きる喜びを享受している奴なのか。




そんな酩酊状態というかトランス状態に陥るのだ。

これがとても気持ちが良く、ふわふわとした感じなのだ。

俺の本当の居場所はどこなのだ?



























建材薪は水分含有量が多いため爆ぜる。

もちろん安価であることで、懐への影響度は広葉樹薪とは雲泥の差。

ブチブチッ、パチパチッ、バチンとずっと囀っている。

どこかの新築現場で、採寸し丸鋸で割った後の残り物だろう。




爆ぜた欠片でダウンにもブーツにも焦げができた。

「あ〜あ、ダウンはまた補修パッチで直すとしても、欠品の中でやっと手に入れたワークマンブーツ、この焦げ穴から水が入ってしまう」と以前は感じていた様に思う。

でももしいつも使っている大事なkeenに穴が開いていたとしたら…。

決してワークマンブーツを大事にしていない訳ではない。

諦めとは違う、物事を良き様に捉える術に助けられる場面は多い様に思う。

これも普段の心の持ち様に大いに左右されるところであり、出来るならばその心持ちで過ごしていきたい。




























今朝、シュフのシェフのアドバイス通り、凍っていた出汁を1.5倍に希釈して、塩をひとつまみ入れてみた。

沸いてきたら餅巾着を煮て、頃合いで同じく凍っていた具材+出た出汁を投入。

忙しく写真も撮りながら、一口目をすすると…




かっ、完璧!!




煮詰まった感はなく、出汁の新鮮さはそのままに塩気も感じられた。


「出汁を1.5倍希釈に、塩をひとつまみ」


経験から生じる知恵。

そのアドバイスは驚くほど的確だった。

出汁に練り物から出たエキスが渾然一体となったお味は、もう言葉では言い表せない複雑さと極楽浄土を感じさせた。

感無量、至極、極み、素材から生み出される出汁というものの素晴らしさ…





















野遊びはどのように時間を使っても良い。

何をしても良い。

迷惑にさえならなければ。

ずっと焔を見つめていても良いし、腹が減ったらオピネルを出してくれば良い。

星が見たかったら昼寝をして、25:00に広角レンズを持ち出して構えれば良い。




















まったりとした時間の流れにのほほんと乗っかるのも良し、そしてそれを愉しみつつも何かしら考えている。


決して忙しくではなく。


焚き火の焔のこと、気象条件のこと、腹や喉の乾き具合や、時折りプライベートや仕事のこと。

まったりとした時間に、やりたい事をのんびりと考える。


そうした自分自身のトランス状態に、ひたすら酔う。


考える時間を何かしらの制限なく出来るのが、野遊びの愉しみのまた一面かと思う。



















  


Posted by 一輪駆動 at 18:01Comments(6)キャンプ

2023年12月16日

【嘆き多き、でも愉しき野遊び】








なんだか世の中がせわしない。

師走ということも勿論あるのだろうが、それとは何か違うせわしさを感じるのだ。

閉塞感からくるせわしさと言ってもいい。

社会の大半の人々は今、困難に直面している。

上がらぬ賃金、社会保障費の増大、物価高、経済の衰退、円安…。

この30年の日本には、希望と呼べる材料が殆ど見当たらなかった。

何処かに大局観を持つリーダーは現れないものか。











そのような中、サッカー日本代表の連勝やメジャーリーグにおいて日本人初の本塁打王、将棋界での偉業、それらにいっとき心を揺さぶられる。



しかしいっときなのだ。



積み重ねにはならない。





















まだ夜も明けきらぬ午前4時。

ヘッドライトは繋がって2本の光が延々と伸びていた。

かつての国道246号線は急ぐクルマは右車線、それほどではないクルマは左車線と棲み分けが出来ていた。


しかし今日の246は違った。


数珠繋ぎで走るクルマを三角コーンの如く捉え、せかせかと左車線へ移ったりまた右車線へ戻ったりと、頻繁に車線変更を繰り返すクルマを多く見かけた。

車間距離を確実に把握して移るならまだいい。

そのクルマに割り込まれた後続のクルマは、大体が急いでブレーキランプを灯していた。






















オールスタンディングのライブホール開場かの様だった国道246号線から傍にそれ、前回嬉しい配慮のあったマックスバリューへ寄り道した。

常連とは勿論言えぬまでも、気持ち良さが足を運ばせる。




驚いた。

覚えていた、あの店員さんは。




こちらは当然のこと、店員さんのお顔を覚えていた。

「この間はありがとうございました」

えっ、まさか向こうから。

微笑みながら、「野菜パックは奥に届いているので、今出してきますね!あら、野菜パックではないかもしれないのにねw」

いやいや、何から何まですみません。

色んなありがとうの気持ちが湧き出てきて、それしか言えなかった。

冒頭の閉塞感からの脱却は、いっときではなく、確実に積み重なっていった。






























今回は川沿いに営地を定めた。

曇り予報で、明日午前は雨予報であり、川から冷気が登ってくることも考えたが、ハッスルくんにはアルパカストーブを積んできている。

川沿いと30mくらい陸側では気温が数度違う。

耐えられなくなったら、アルパカくんのお世話になろう。

メンテは昨年の冬にやったきりだが、芯に火は着くのであろうか。








天気が悪いせいもあり、営地はガラガラだった。

ここと決めた場所の両隣りに挨拶をする。

でもその挨拶に怪訝な表情をされた。






サーカスTCDXはよく出来た幕だと思う。

一人で使う分には広いと感じる時もあるが、道具を散々散らかしても狭くは感じない。

寒さが募れば、三角屋根にすれば良い。

雨天でも焚き火の暖が欲しければ、三角屋根の片側を開いてタープ的に使える。

中でストーブを焚くのであれば、下側に少し換気口を設けてやり、前面を閉じればすぐに室温は15℃まで上がる。

五隅をペグダウンして中央にポールを差し込めば、すぐにヱビスにありつける。

この幕がダメになったら、またこの幕を買うだろう。

愛着はひとしお。





























ヱビスを開ける前に、薪を仕入れに行こう。

悪友から教わった薪屋さんだ。

ここからクルマで20分弱。

厚木飯山の山道を道具を出して軽くなったハッスルくんは、ピョコタンピョコタンと車体を揺らしながら軽快に登っていく。

この気持ち良き走りを感じていると、普段の燃費が悪いのも腑に落ちる。

サーカスを張って重厚長大なキャンプをやるのも、ハンモックで軽快にキャンプをするのも、バックパックで額に汗しながらも野営をやるのにも、すべてこなせる様にそれぞれに見合った道具を積みっぱなしだからだ。

トリガーなんちゃらが発令される気配も無い昨今、この道具の積み方も考え直さなければならないであろう。
























木曜から日曜まで営業と聞いていた。

以前に薪割り台を購入したことがある。

3年振りなので、ほぼ初訪問と変わらない。

到着して電話をかけると店主が別棟から現れるとのことだったが、その日は9時の段階で作業をされていた。





「初めてですか?」

以前に薪割り台を買わせてもらったのですが…。

「そしたら薪ストーブ用?それとも焚き火?」

焚き火用に広葉樹が欲しいな、と。

「それならこの袋がお得じゃないかな」

指し示す肥料袋に入った広葉樹薪は、量的にも申し分なく、値段も市価の半額から3/5くらい。

その一袋をいただくと、これも持っていってよと焚き付けが載った棚を指差し、更に無料の春菊までいただいた。

こんなにしてもらったら申し訳ないけどと伝えると、
「どうせ傷んじゃったら捨てるだけだし、ウチでは食べきれないからね」

鍋に丁度いい、ありがとう。






どうやら市場に出せない野菜らしい。

規格に沿った野菜でないと市場に出せないシステム自体に疑問を抱く。

なにやら今回は、疑問や嘆きの連続となっている。

必要性のある疑問を持ちながら楽しむのも、それはそれで大切なことかもしれない。



























営地に戻り、なくなる事を危惧して幕のみ設営していたため、後の道具を幕内に移動した。

本来なら薪屋に寄ってから営地へ来たいのだが、到着が遅くなると張りたい場所がなくなってしまうのだ。

その手間をかけているため、からっからの喉はヱビスへの渇望に疼く。

手持ちの煎茶でも口にすればいいものだが、乾き切った喉へヱビスをぶち込む瞬間の幸せを思うと、クルマから幕内への移動も小走りとなる。

呑兵衛につける薬は無し。
















煎茶と言えば、1日に煎茶を2L、そしてゴマをかじることを半年続けたら、160近くだった血圧が129まで落ちた。

それも週一ラーメンを続けながらである。

この絶大な効果に、口から入れるもので身体は出来ている当たり前のことを痛感した。

だったら週一ラーメンを控えれば、との声も聞こえてきそうだが、小麦粉で出来ている身体には到底受け入れられない話なのである。























ブロガー仲間に教えてもらった「ほぼカニ」という商品を、スーパーで探して見繕ってきた。

それに大好物の切り干し大根やひじきの煮物、玉子のサラダ。

サラダがないとほぼほぼ茶色や黒なので、黄色味を加えて色合わせで買ったもの。

映えなんて気にしないが、撮影することを考えるとついつい色バランスを考えてしまう。

実際、食べても買っておいて良かったと思ったが。

これらをひとつまみ、そしてヱビスをゴクリ。

呑兵衛キャンパーの至福の時間である。






















購入した薪は、確かに煙が少ない気がする。

「結構、乾燥には時間をかけてますよ」とのことだったが、咽せることも少なく、ヲッサンならではのハァッッックション!というくしゃみも出なかった。

漫画の様なこのくしゃみ、なかなか恥ずかしいのである。
























朝、山から顔を出した太陽は、この時期16時前には山の陰に沈む。

するとぐっと気温が下がる。

大抵、呑兵衛はお気楽に酒を呑んで本を読んでいるため、身震いをすることで日没を知る。

ランタンは灯していないし、薄着のまま。

夕飯の支度もまだ、とないない尽くし。



いつもそう。

何ら学ばない。



そしてポツリとこぼすのだ。

「あ〜あ、やっとけば良かった」と。

慌ててランタンに火を入れ、LEDランプを天井にかけ、鍋の支度を始める。

キノコ鍋にハマったので、今夜も霜降りヒラタケ、奮発して原木栽培椎茸としめじを仕入れてきた。

鍋にごま油を敷き、ホルモンに少し熱を通す。

いつも通り既成の鍋スープのお世話になり、ホフホフ言いながら寒さの増す夕暮れに鍋をかっこんだ。





じんわりと温まる。

醤油ベースのモツ鍋。

親の仇とばかりにニラを放り込んでやった。

























キャンプに天気予報は必須。

上流で結構な雨量があれば、時間を置いて下流の川幅が広がる。

営地においても、僅かに高台に設営したとしても、その想定以上の雨量があれば、サーカスの土間は水たまり。

日頃、天気.jpというアプリとyahoo天気アプリを参考にしている。



天気.jpでは、 木曜 晴れ
金曜10-12時小雨
yahoo天気は、木曜 晴れのち曇り
金曜8-14時 小雨



果たして今後どちらの予報を参考にするか経過を見てみる。



結果、この日に限って言えば、希望的観測でキャンパーを喜ばす天気.jp、現実をまざまざと伝えるが実際は助かるyahoo天気という具合だった。

その雨の時間を使って温泉で温まろう。






















熾火はチロチロと、しかし熱そうな炎を薪の周りだけに上げていた。

酒もタバコも普段より格段に増えている。

おっと胃拡張もだ。
























さあ、眠くなってきた。

まだ20時なのに。

チェアで落ちている時間が多くなってきた。

夜勤ペースになっている身体は、もうお休みなさいと囁いていた。








シュラフの中は温かった。

冷えた足先の温度を逃さずに、そのまま維持してくれた。

いつも思うことだが、地面に寝て、自分の体温でシュラフ内を温め、その幸せ空間の懐で寝付く。

オリオン座が南の空に瞬いていた。

幸せだ。




























そりゃ、20時に落ちれば3時には目が覚める。

この時間を使ってブログ原稿を打ってしまおう。

タバコに火をつけ、ジャグから水を汲み一気に飲み干す。

そしてひたすらスマホの小さな画面に文字を打ちつける。

若者がよくやるフリック入力がやっと出来る様になった。

物事は慣れだな。

ヲッサンも鍛錬次第でまだまだいける。


















 


ガリガリと豆を挽く。

多めに豆を入れ、何度も鼻を近づける。

中挽きなのですぐに終わる。

粉珈琲の袋を開けた時とは、格段に違う香り。

寝過ぎた目を覚ましてくれる、心くすぐる香り。

野での朝珈琲ほど、情景に合うものは無いと思っている。

いや、朝に薄暗い中で始める朝焚き火もか。

それとも出汁の沁みたモツ鍋うどんもか。

結局のところ、キャンプでやることは何でも楽しい。

あー、身も蓋もないこと、この上なし。






















珈琲を呑んでいると、お隣りにクルマを停めた方が、

「お隣りに張らせてもらいます。よろしくお願いします!」

やはり気持ちのいいものだ。

自分の習慣も変えずに行こう。




















さあ、野との別れは寂しいが、片付けを始めなければ。



























  


Posted by 一輪駆動 at 16:45Comments(6)ソロキャンプ

2023年11月10日

【人が人と関わる、という営み】





スーパーマーケットの売り場をぐるぐると巡るのはとても楽しい。


朝、7時開店の店舗。


4トンワイドトラックに肉や生鮮食料品を満載したカゴ台車を、ドライバーが後部のパワーゲートを使って順次卸し、それぞれの売り場コーナーまで押していく。

強風、豪雨の中、ドライバーは少しでも商品が濡れる割合を少なくしようと気を遣っていた。



















鍋だな、今晩は。

手軽で美味しくて腹も満たす、そうなると自分の力量からして選択肢は鍋しかない。

カット野菜という便利な品を探していると、その棚はもやしのパックなんかも含めてがらがらだった。


相当にきょろきょろしていたのだろう。


見かねた店員さんが「もやしですか⁉︎ それともカット野菜をお探し⁉︎」

カット野菜なんだけど…。

「今、到着したトラックに入っている筈ですよ!」

どうもありがとう、ぐるぐる回ってからまた来ます。

ご自分も品出しでお忙しい時間帯だろうに、お客の様子を垣間見る余裕があるのだ。


























あとは呑兵衛に大事な氷はどこに置いてあるかだ⁉︎

ぬるい酒など呑みたくはない。

すると近くを通りかかった親子連れの会話が聞こえた。


「ねえ、ママ、今日はなんかヌルいね」

「そうねえ、気持ち悪い暖かさだね」


こちらの女の子の表現が秀逸。

小3くらいだろうか。

寒くないねでもなく、あっついねでもなく、正にぬるいね、これなのだ。

こどもの肌感覚と素晴らしい表現に、1人ニンマリとしてしまった。





そう。

11月上旬の朝7時で気温が22℃。

強風に横なぐりの雨。

波浪注意報を地でいっている。

しかしこの状況で何故か買い出し。

ドMには心くすぐられる状況だ。























板氷やかちわり氷をカゴに入れた時に声をかけられた。


「カット野菜、揃いましたよ!」


振り向けば先ほど尋ねた店員さん。

担当の売り場は随分と離れているのに、商品が陳列されたことを伝えにきてくれたのだ。

えー、わざわざスミマセン!ありがとうございます!


その店員さんのお人柄なのか、マックスバリューの社としての教育の表れなのか。

人を気持ち良くさせてくださると、朝メシ用のうどんまでカゴに入れてしまうではないか。






最近の雨雲レーダーは秀逸すぎる。

予報通り9時に雨は弱まり、風速6mながら、真っ青な空がそこかしこに覗いていた。





















そうだ、営地へ向かう前に薪を補充しておこう。

シャッターを開けて間も無いおばちゃんは、忙しそうに準備をしていた。

「雨の中、ありがとうございます」

それにしても雨と風、凄いですね。

いつもは軒下にある薪棚が、店内を占領していた。

「すみませんね。狭くて」

いえいえ、濡れたら商品にならないですものね。





「お客さん、さきほどダブルの虹が出ていたの見ました?」

えっ、ダブル?自分が見た場所はシングルでしたよ。

ところでシングルってなんやねん⁉︎

「半原山の雲が取れれば、晴れてきますよ」

こうした地元でしか聞けない話が好きだ。

と言いますと、その半原山は西の方にある?

「うーんと、こっちが北だから、東があっちでしょ。じゃ、西だ!」

女性ならではの方向感覚が面白い。
























営地に着いた。

雨は止み、気温は25℃まで上がっていた。

地面から立ち上る湿気と、大気中の湿気。

半袖が必要な気候。

下草はびしょびしょだが、この後晴れる予報なのですぐにからっからに乾くことだろう。

予想外なことにこの野営地にも色づく樹々があった。

チェアに座り、それらの樹々が目の前にくる様に開口部を向けた。

その視界の中に、近場の樹々も入ると尚良い。

どこに張るかを決めるまでに、ヲッサンはうろうろ歩き回ったり、しゃがんでみたりと忙しい。































ヱビスを一本開けたら猛烈な眠気が襲ってきた。

手に持つ小説の向こうには、ヒラヒラと舞う蝶、止まり木を行き交うアキアカネ、隣りの樹々からは小鳥の囀り。


1秒が5秒くらいに長く感じる。


ゆったりと過ぎていく時間。

何をせずとも良い。



腹が減れば食う。

喉が乾けば、焼酎をゆずレモンサワーで割る。

眠くなればシュラフに潜る。

よし、こうなれば昼寝をしよう。

シュラフのジッパーを上げて、枕の位置を定めて。

いつ落ちたかの自覚がないまま夢の中へ。

強風も緩み、ちょうど良き温度の風が優しく頬を撫でていた。


























静かだった。

唐楓の種子がいっぱい落ちていた。

夢を見た。

ゆらゆらと海の上を漂っていた。

見上げた空は真っ青で白い雲がたなびいていた。

とてもとても気持ちが良い。

何故か釣りをしている夢だった。

ガクンと竿に衝撃が走り、慌てて合わせを食らわすが、すぐに竿のしなりは戻っていた。

そこで目が覚めた。

あれはカンパチかシマアジか、はたまたガクンと来たアタリからして良型の真鯛か…。

二度寝してみようか。

夢の続きが見られるといいのに。



























そうだ、鍋の準備をしよう。

今回は食い道楽キャンプ。

いつもやん。

ぶなしめじを割き、タマネギを刻み、霜降りひらたけを小分けにする。

家での支度の途中、ナイフを研いでいないことに気づき、バッグから出してみるとポツポツと赤錆が浮いていた。

オピネルは柄本体に刃が収納されるため空気に触れにくい。

砥石1,000番と青棒で仕上げをしてきた。

タマネギの皮に刃を垂直に当てると、刃がスーッと入り込んでいく。

切れると言うよりも、刃が勝手に入っていく感覚。

酔っている時に使うのは危ないと感じるくらい。

いつも酔っとるやん。

料理の準備は億劫だと思っていたが、始めてみればそんなでもなかった。




















初めてかもな。

自分の作った料理で「コリャ、旨いわ」と思ったのって。

素材から出る旨味が一段と味に深みを出してくれるのか。

分からんけど、いや知らんけど。

































4:45起床。

9℃。













焼けない空にもんどりうちながら、珈琲の支度をする。

この支度という言葉、好きだな。

一連を楽しめている気がする。

家に少し残ってそのままだったCB缶が数本転がっていた。

いつか使い切らなきゃと思いながらも、部屋を狭くしていた。

10年ぶりにSOTO-ST310にガス缶を差し込み捻る。

まったくメンテナンスもしていないのに、何事もなく着火した。


Made in Japanの底力。


いつものガソリンバーナー、こちらもSOTO製品だが、比べると湯が沸くまでに2倍弱かかるイメージ。

以前はその時間さえも楽しめていたのか。

時短とはいいこともあれば失くすものもある。






















一台の軽バンが河原に入ってきた。

若いカップルは荷物を出すと、備長炭に火をつけようと団扇で扇いで頑張っていた。

白い煙は上がるものの、しっかりと火が付かない様子。

彼女は隣りの車中泊キャンパーに助けを求めた。

キャンパーは撤収中だったにも関わらず、身軽に求めに応じていた。

無事炎は上がり、先ほどよりも煙が立っていた。

「ありがとうございます。助かりました!」

若いカップルは、見ているこちらの背筋が伸びるくらいに、頭を下げお礼を述べていた。

持参しているものから選んだお礼の品を手渡そうとするカップル。

それを頑なに固辞するキャンパー。

困って助けを求め、それに快く応じ、丁寧なお礼で締め括る。

なんと気持ちの良い光景だったのだろう。

この朝の雲一つない青空もそうだが、何気ないこの関わりにも心を洗われた。

ソロだとこうした光景によく出くわすのだ。




















昨晩の鍋にうどんをぶち込んで朝メシとしよう。

使い切ったガス缶を次のものに換えて。

煮詰まったチゲ鍋は濃過ぎた。

少しの水を鍋に注ぎ、再度加熱する。

朝のチゲ鍋うどんは、少々キツかった。

とうとう健啖家も幕を閉じる時が来たか。

以前はこんなこと感じたこともなかったのに。






















パラコードを張って渡した物干し場で、シュラフと毛布は風にそよいでいた。

そんなことをされたら、また眠気を誘うではないか。













しっかりとリセットされた。

シュラフがパサパサに乾いたら、パサパサした都会へ戻ろう。


















  


Posted by 一輪駆動 at 21:07Comments(16)ソロキャンプ

2023年10月20日

【雨を呼ぶ男と、晴れを連れてくる男】












左車線に移ろうとミラーを見た。

いつもの所にミラーは無かった。

感覚としては、そこから視点を30cm下げたら小さなミラーがあった。

慣れとは恐ろしいもの。

身体が勝手に大型トラックのミラー位置に視線をアジャストしてしまう。



















薄い鉄板のルーフを叩く小刻みな音。

防音には無頓着なハッスル君は、雨足が激しくなったことを屋根から伝えてくる。





















既に9ヶ月が経っていた。

最後にキャンプをしてから。

月イチで連休申請を続けてきたが、極端な見立てかもしれないが、ひと月の他の28日間が晴れでも何故かその連休は雨。

何かに取り憑かれてるのか。

厄年とかお祓いまで考えた。


 

















職場を変えてからもうすぐ2年。

まったくの畑違いな業種のため、イチから仕事を学ぶ必要に迫られた。

歳を重ねるにつれ、自分のメモリーやハードディスクは反応が遅くなりまた容量が減り、普段使いのモバイルバッテリーの経年劣化が人ごととは思えなくなってきた。

「あんたも400回も放充電を重ねてればそうなるわな」と愛しささえ芽生えてきた。



















仕事を覚えるには、あらゆる人に聞きまくった。

先輩に同僚に相手方倉庫のスタッフ、他社のドライバー等々。

相手の様子を見て丁寧に挨拶から始め、正に今困っている事柄を伝える。

耳元から下を刈り上げて頭頂部だけを束ねて後ろへ流している兄ちゃんも、やけに焼けていて細いシルバーフレームに顎髭を蓄えたヲッチャンも、丁寧に聞けばこちらの質問以上に詳しくまた分かりやすく答えてくれた。

「ずっと真っ直ぐ行くと右手にセブンが見えるんで、そこから二つ目の信号を右。細い道だけど、大禁(大型車通行禁止)じゃないから大丈夫」

交差点名で教えるのではなく、大型がその大きさにより車線変更しずらい事を見越した道案内。

「それなら219番のバース近くに受付があるわ。分かりにくいけど勝手にドア開けて中へ入っていいから」

「Uターンするなら、右のミラーを擦るヤツ多いんで、左際まで寄せて電柱巻き込む様にハンドル切ってって」

この方々の善意が無ければ、今の自分は無い。

感謝している。























世はSNSやネットが全盛。

とても便利にはなったが、情報は溢れ、その取捨選択に右往左往する。

知らなければ悩む必要の無い事柄も、5インチの光る板が否応なしに吐き出してくる。

体験を通した知識よりも、映像や文字から得た知識が格段に増えた現在。

知人がソロキャンプを始めるに当たってyoutubeで情報を得たとのことで、その後の初体験のあらましを聞くと、突然の雨以外に困ったことはありませんでした、と。

ガラケーさえも無く、ポケベルがあったかどうか。

肩から吊り下げる箱携帯電話も無かった。

そんな時代にキャンプを始めた身からすると、困ったことや分からないことはいっぱいあり、その際は兎に角人に聞くしかなかった。

人に聞くにはそれ相応の礼儀や作法が要る。

確かに関係性の薄れた現代社会では、手軽に情報を得られるネットが隆盛となるのも分かるし、自身もその恩恵にどっぷりと浸かっている。

だが、まったく関わりのない人にものを尋ねる経験を通して思うことは、善意や小さな幸せや感謝の心はそこら中に転がっていて、それを掴むか通り過ぎてしまうのかなのだと。

ふと、知識も大事だが、知恵はもっと大事なことだと思うようになった。




















脱線した。

歳を食うとこれだ。

一言多いことに本人が気づいていない。

今回はひょんなことから全国制覇(沖縄を除くw)を成し遂げたはむおじさんとキャンプをすることとなった。

メール三本で実施が決定。

スピード決着に驚く。

その初日が雨始まり。

お祓いを考えている雨男が相手では、はむおじさんもさぞかし辛かろう。

連絡では、関西から雨雲を追いかけて関東へ向かいますよ、とユーモアたっぷりの返信が来た。

雨をも楽しむこの度量。

雨男も負けじと見倣いたい。



















9時。

豚ホルモン屋が開く時間だ。

外は斜めに降りしきる雨。

そこら中の水たまりも行き場をなくし、その面積を広げていた。











一坪ほどの小さな店に入った。

キャンプで焼いて食べたいんだが。

「白モツは漬け込んだ味噌だれが旨いよ」

「ひとりでこんなに食べられる?結構な量だよ」

大丈夫、友人と2人でいただくから。

「2人でも1.3kgは多いんじゃない⁉︎」

タン、ハツ、カシラ、レバー、トロ、白モツ…。

これだけの種類があれば、飽きることなく楽しめるだろう。

果たしてはむおじさんは健啖家なのか。

それに胃袋の大きさも。
























東名高速経由、厚木到着と連絡が入った。

スーパーで買い出しをし野営地に向かうと言う。

13時。

雨は、予報通り止んだ。

初めてかもしれない。

予報を頭に、雨脚の強さを見極めたのは。

約束の刻まであと1時間。

緊張はなく楽しみだけが募る。

ホルモンを手に入れた後、2ヶ所の野営地を下見し、第一候補の場所が意外と水捌けがよくそちらに決めた。

水たまりを避け、高台を選び、サーカスTCDXを張った。

そこからはみるみるうちに雲が溶け出し、青空とこの時期にしては眩しい太陽が顔を出した。
























14時。

待ち合わせのセブンイレブンに向かう。

駐車場にはオリーブカラーのN-VANとその脇に初老の知的な紳士が立っていた。

一輪駆動です、ども!

固く握手を交わした。





















「設営前に先ずはとりあえず一献!」

とヱビス350が手渡された。

乾杯!

遠いところをありがとうございます。

ところが設営前の一献は、一献だけでは済まなかった。

チェアだけ出したはむおじさんは、ヱビス350では足りずに、またクーラーへ走って行った。
























「酔っぱらってからじゃまずいんで、テント張っときますわ」

それではこちらは、その合間にホルモンパラダイスの支度を。

炭の着火用に少し焚き火を起こした。

火の安定した薪の横に炭をそっと置いた。

火が炭に移るまで、テーブル上で袋に入ったそれぞれのホルモンを小皿に分ける。

今回はどうしても袋から直接網に出したくなかったのだ。

韓国料理店に似せて、100均でステン小皿を準備しておいた。

目の前では、卓上焚き火台の向こうに、赤蜻蛉が乱舞していた。
























新幕のコールマン・ツーリングドームSTを張り終えたはむおじさんは、やっとこさチェアに腰を落ち着かせた。

その頃には、最初のカシラが頃合いの焼き加減となっていた。

落ちた余分な脂は、炭火に当たって煙を上げた。

腹は減ってます⁉︎

「昼メシ食うてへんのでペコペコですわ」

さあ始めよう、ホルモンパラダイスを。






















カシラは肉々しく、ハツは歯応えがしっかりとし、レバーの切り口は立っていた。

豚トロは焦げる手前で皿に移した。

卓上焚き火台は大活躍で、炭火を近づけて近火の強火で外側だけをカリッカリに仕上げていった。

喋りながら、肉の焼ける様を眺め、炭火の調整をし、新たな酒を作っては呑んで、写真を撮る。


忙しい。


だが、まだまだ同時に五つのこと、できるやん!と悦に入る。





















行ったことのあるキャンプ場の話や、仕事のこと、交流のあるブロガーさんについて、そして全国制覇の話に耳を傾けた。

はむおじさんは関西人らしく、話をどこかでオトそうとし、その度にニヤけていた。

彼はいそいそとトランクから【酒 十石(じっこく)祝 純米吟醸】を持ち出してきた。

更に、【英勲 やどりぎ 純米大吟醸】も。



一口含んで、これはヤバいヤツや…



良き米と、良き米麹と、良き水と。

日本人の根幹に染み渡る味わい。

日が陰るにつれ、赤蜻蛉は数を増していた。

















はむおじさんはクルマからエレキテルの様な器具を持ち出して、バーナーに載せていた。

うずらとはんぺんを燻らすと言う。

関西ではあまり見かけないはんぺんが出てきたことに少々驚いたが、これは彼のご当地食材を食するという一環かもしれない。


























瞬く間に【じっこく】は空になり、それぞれの呑み代に移った。

豚トロが焼けた頃合いで、彼は「これはビールでしょう」と、またクーラーへ走った。


いやいや腰が軽いのう。


こちとら、手の届くところに全てを配置し、なるべく立ち上がらない様にとしているのに。





















夜が更けてきた。

次にクーラーから現れたものは、太いソーセージであった。
断りを入れ、焚き火の炎で炙った。

ホルモンを焼く仕事で、卓上焚き火台は役目を終えていたからだ。

噛み切るには少し力の要る皮が裂けると、中は肉汁がこれほどまでに含まれていたかと唸る逸品。

2人でヒーヒー言い合いながらチョリソーをいただき、今夜の肉肉しいパーティーは終了。
























2時起きの身体は、シュラフに潜ることを強く望んでいた。

肌寒さにパーカーを着て寝ようとすると、左袖に違和感が。

脱いでみると、そこにはコオロギが宿泊していた。

ぴょんと飛んで闇に消えていった。





























無数の鳥の囀りで自然と目が覚めた。

いつもながらこの起き方は気持ちが良い。

時間指定の無い高笑いよりも。

21過ぎに呑み過ぎと喋り過ぎで撃沈してから、4時まで熟睡だった。

夜半にトイレに起きることもなかった。

しっかりと充電完了。

身も心も睡眠欲も食欲も満たされた。

幕を出ると、吐く息が僅かな太陽光に照らされて白く光った。

季節の移ろいをその白さで実感した。













 













甘露の水を身体に入れたくてクーラーを開けると、そこには板氷の上にナムルと宮のたれが鎮座していた。


あー、忘れていた。


昨晩出す予定だったのに。

肉ばかりでは味気ない、そして味噌だれや塩胡椒以外にも味が欲しい、そう雨の中で考えていたのに。

酒量上限令を出さねばなるまいか。






















ポンピングでエアを送り込み、バーナー部にジッポの火を近づけた。

沸いた湯に、珈琲粉を5杯。

ゆっくり蒸らしている頃合いで、はむおじさんが幕のファスナーを開け出てきた。

何故かなかなか寝付けず、5〜7時の2時間だけ落ちていたとのこと。

昨晩のホルモンが刺激的すぎたのか。

蒸らした珈琲を味わう。

やたらと食べたかったバームクーヘンと共に。

正に期待通りのコンビ。




















こちらはカップヌードル、あちらは幕の乾燥。

それぞれの時間が過ぎていく。

車中泊仕様となったN-VANの所定の位置に荷物を収めていく。

近いうちに冒険家ブロガー 八兵衛さんともコラボをすると言う。

旅話に花が咲くことだろう。

はむおじさんは次の宿営地 半島へ旅立っていった。























晴れ男は南へ。

雨男はもう一泊するか。















 








  


Posted by 一輪駆動 at 20:32Comments(12)キャンプ

2023年01月15日

【諦めない鷺、諦めない若者】




















冬の凍てつく水に細い足を浸した鷺。

水中に見出したウグイらしき小魚を、目にも止まらぬ速さで啄む。

本日の食事を確保して気が緩んだのか、絶命した小魚が口元から落ちた。

その間隙を縫って、水面すれすれに飛行した烏が小魚を横取りしていった。

烏が止まった樹を呆然と見つめる鷺。

正に呆然という表現が大袈裟でないほどに、一点を見つめていた。

意を決したように水中から羽ばたき、その樹へ一直線に向かっていった。






反撃を予想していなかったのか、烏は小魚を放り出し山へ飛んでいった。

獲物を取り戻した鷺は、また元の場所へ戻り、小魚を丸呑みにした。

細く長い首のどこに小魚があるのかが見て取れるほどに。

ゴクリと音がした様だった。

















目の前で繰り広げられた生命循環の輪。

鷺の表情の変化は分からぬが、獲物を横取りされた瞬間の驚き、飛び去った相手を見つめる視線、意を決して取り返しに行こうとする様が、チェアに座るこちらの目に痛いほど伝わってきた。


















自然の中で必死に生きる。

この厳しさ溢れる情景を側で見られただけで、ここにサイトを建てた意味があった。





















いつもの野営地を離れ、少し上流側にしてみた。

どこか新鮮味を求めていたのである。

芝地から1mくらいの落とし込みで川面があり、鷺の棲家である流れは、降雨が少なかったこともあり、水底を見せているところもあった。


















後方からカタカタと音が聞こえた。

振り向くとスーツケースを引きながら、辺りを見回す若者。

場所が決まると小さなドームテントを建てていた。

徒歩キャンパーか。

近くのバス停から歩いてきたのだろうか。




















カラカラに乾き切った薄野を中景にし、好物のポテトチップとヱビスで目の前の鷺に乾杯。

サーカス幕のスカートがバタバタと音を立てていた。

風が止んだら焚き火を始めよう。

薪を補充する商店が木曜休みなことを失念しており、薪バッグにある量だけが在庫。

心細い。











隣に若者グループがいた。

男性2人に女性1人。

コールマンのツーリングドームひと張り。

昨夜は川の字になってお休みか。

楽しげに肉を焼き談笑。

その後、夜中12時に撤収していった。




















アルパカの芯に灯油を浸しておこう。

バイクで来る寒がりの悪友は、焚き火の暖では物足りず、早く幕に籠ろうと圧をかけてくるだろうからだ。

タンクいっぱいまで灯油を満たした。

明け方の珈琲用まで保つことだろう。















スーツケースキャンパーが大きなゴミ袋を片手に野営地を隈なく歩いていた。

どうやら前泊者の残したゴミを拾って歩いている様。

クルマ移動ではないのに、拾ったゴミをどうやって持ち帰るのだろう。

こうした人々のお陰で野営地は気持ちよく保たれている。

思わずお礼の声をかけていた。










自分のサイト周りは、前泊者の残したゴミも含めてきれいにするが、野営地全面までは手が届かない。

それを寡黙に行う彼に畏敬の念を感じた。




















太陽が目の前の小高い山の上まで移動した頃、風は止んだ。

風が収まると途端にポカポカの陽気となる。

ダウンジャケットからネックウォーマーから、防寒具を放り出した。















斧で小割りにした細い薪から火を起こしていった。

湿気を多く含んだ薪からは、かちかち山の如く白煙が上がった。

冬なのに冷えた冷食コーナーで手にした餃子。

スキレットを、落とした油が転げ回るほどに熱した。

中に火が通り、皮に焦げ目がつく程度に焼き直し、少々お酢が効き過ぎのタレにくぐらせて頬張った。

鷺の様には丸呑み出来ないので、よく噛みしめた。




驚いた。

最近の冷食のクォリティの高さに。





















プリン焚き火台はいい仕事をする。

奥側に五徳支柱を立てれば、餃子を焼きながら、手前では焚き火を楽しめる。

スキレットに強火が欲しければ、火が起こっている薪を奥にずらすだけ。

餃子の皮がくっついてきたら、薪を手前に戻す。

そんな作業を、薪バサミでやるのが殊の外楽しいのだ。















夕暮れ時の優しい光が薄野を輝かせた。

こんな絶妙な光加減の時に、カメラを持ちださずに下を向きデザリングの設定に勤しむヲッサン。

前からiPadとiPhoneを繋ぎたかったのだ。

今でなくても良かったのに。

悪友は逃さずに記録していた。



photo by Hekaton















残照が山の彼方へ沈んだ。

冷えてきたので2度目の焚き火を起こそうかと、ふと悪友の気配を感じると、どうやら焚き火の暖では物保ちしそうもない様子。

アルパカのある幕内へ籠るか、と問うと、そんなにはしゃがなくてもと思うくらい完全同意。

体感温度は人によって7〜8度は違う様だ。




















タープ代わりにしていたフラップを片方だけ下ろし、前面三角窓だけにして幕内へ。

マッチでアルパカの燃焼筒に火を寄せる。

単純構造の灯油ストーブはいい仕事をする。

それほどメンテをしなくとも、いつも冬には確実な暖をもらえる。

























幕内はDietz 76とテーブルミニランタン。

暮れなずむ青い幕外と、橙色の鈍い灯りに酔いしれた。

タンブラーは何回も空になった。















鍋スープの素に野菜パックとウィンナーを入れ煮込んだ。

豆乳の甘さなのか、気になる甘味があった。

知人曰く、化学調味料の甘さでは?と。

そろそろ鍋スープの素にも飽きてきた。

かと言って料理には手を出さないし、そのセンスも無い。





















悪友からの差し入れで「いちご煮のおむすび」をいただいた。

雲丹の香りが程よく、何個でもいけてしまう魔力があった。

旨いものを食うと心が幸せになる。

身体の芯から熱る様だ。

ご馳走様。
















悪友は400cc単気筒の野太いエキゾーストノートとともに帰っていった。
















お隣りが24時に帰った後、同じ場所へ1時に若者グループが来た。

この時間から設営し、ペグを打つか。

それどころかそのまま朝まで宴会。

仕事では夜勤もするが、キャンプでも夜勤となるとは。









自分が出したゴミではないのに、野営地を清掃する若者。

他の迷惑を省みず、自分らだけの楽しみに興ずる若者。

スーツケースキャンパーが殊更に輝いて見えた。






















時折り上がる笑い声で、夜中何度も起こされた。

時計を見ると4時。

早いが起きるか。





















温度計はマイナス4度を指していた。

いの一番にアルパカに火を入れる。

持ち上げて燃料の重さを測り、炎の様子を確認。

この感じなら、湯が沸くまでは保ちそうだ。











スタンレークック&ブリューに水を注ぎ、アルパカの上にかけた。

まだ時間が早いため、ミルでの豆挽きは諦め粉の既製品をテーブルに用意した。

空は曇天で、カメラを手にする意欲が湧きそうにない。











ふと幕外を見ると、昨日と同じ鷺かは分からぬが、しきりと水面に嘴を差し込んでいた。

出来れば首から名札を下げておいて欲しい。

そうしたら、より共感できるのに。

鷺も朝メシなら、こちらも昨日の鍋にうどんを入れよう。

湯沸かしを横へずらし、焚火缶もアルパカに載せた。




















嫌な時間がやってきた。

散々出した道具の撤収である。

ツキイチキャンパーは、持てる物すべてを出して悦に入ってしまう癖がある。

寝床関連からまず始め、もう必要としないナイフや斧、酒類の片付けから。

幕も仕舞い、プリン焚き火台とテーブルとチェアだけで、名残の野山を噛み締めた。










次回は1ヶ月後かな。

張る位置さえ間違わなければ、この営地は良い。

























  


Posted by 一輪駆動 at 15:33Comments(19)キャンプ

2022年12月16日

【プリン それと同じく丸い焚き火台】






4:30。

2つかけた目覚ましを暗闇の中で探す。

えいや、と勇気を振り絞ってぬくぬくの布団から抜け出る。

冬のこの時ほど、勇気を必要とされるタイミングは無いのではないか。







府中街道は出勤や業務のクルマで溢れ返っていた。

R246まで出ると、快適なスピードに変わっていった。

ルームミラーの中の朝陽はいつもより大きかった。

時折り月もやたらと大きく見える時がある。

あれは何故なのだろう。











ロードタイプの自転車が速いペースのクルマと並走。

保土ヶ谷バイパス並みのR246では、混走はひたすらに怖い。

制度と実情が合っていないと感じた。

事故があってからでは遅い。















買い出しに寄ったスーパー。

納品で停まっていたトラック後ろのパワーゲート上からこちらへ、

「おはようございます!」と挨拶の声が聞こえた。

こちらも挨拶を返しトイレへ駆け込む。

座ってふと考えると、スーパーの従業員ならまだしも、お客さんにまで挨拶するとは凄いことだなと。







身軽となってトイレのドアを開けると、まだそのトラックは作業中だった。

余計なお世話と分かっているが、ヲッサンはついつい言葉にしてしまう。

お客さんにまで挨拶するって凄いことですね、と。

「いや〜、そうですか?なんかありがとうございます」

と帽子の後ろから長い髪をなびかせた兄ちゃんは照れながら笑う。










道志のキャンプ場に向かう時は必ずここで買い出しを済ませていた。

スーパー・ビッグ二本松店。

しかし12月いっぱいで閉店のお知らせが掲示されていた。

早朝の買い物は、おじいちゃん、おばあちゃんに囲まれて品定め。

彼らは今後どこでどう購っていくのだろう。

足腰を思うと心配になる。














ヱビスを確保しておこうとコンビニに寄ると、安売りカゴの中にキリン・ラガーが20%オフで放り込まれてあった。

中東系の店員に安売りの理由を尋ねると、流暢な日本語で

「廃番になるので在庫一掃ですよ!」

元々日本で生まれたのかな、それとも努力の賜物なのか、いずれにしろ他言語をここまで使いこなせる彼の育ちの経過に舌を巻いた。




















オーナーへ久しぶりの挨拶と受付を済ませ、坂を右手に降りパンダサイトへ。

平日でも4サイトが埋まっていた。

明日朝の陽当たりを考え、上流側へクルマを進める。

地面の濡れを見ると、この時期、結露は凄かろう。

まだ安寧な眠りを貪っている方もあろうかと、静々と奥へ。









友より現在「調布を進行中」とラインが入った。




バイクなら通勤渋滞にハマることもなかろう。









まだサイトには陽が当たらない。

薄暗い河原へ降りてみた。




ここにしよう。




午前中は上流からの風が強い。

手始めに敷いたグラウンドシートが舞い上がるほど。

タープ寝は諦め、サーカスを引っ張り出した。

しかし幕の開口部は自然物に向けたい。

風の通り道と己が望む景色とのぎりぎりにペグを打ち込む。














心に余裕があると道具をフルに出したくなる。

逆の時はシンプル設営。

自分の今の心持ちを知るには、良き指標。










久しぶりに欲しくなったキャンプ道具。

前回、K君にお披露目された円形の焚き火台。

しかし個人工房で製作という事で、現在は生産中止で入手困難。



でも欲しい。



何台かの焚き火台で焔を楽しんできたが、薪をくべる、焔を利用する、その両立が叶うものをずっと探し求めてきたのだ。









同じ構造のものを手に入れた。

本当は本家を買うべきだろう。

出来るならば開発費に対して敬意を払いたい。

しかし現状手に入らない。




でも欲しくなったらタマランのだ。




メルカリでは五万といった途方も無い額で取り引きされている。

転売に手を貸すのも嫌だ。













構造としては六角形の柱が立ち、円形の火床を乗せ、そこへ五徳を保持する支柱を追加する。

その支柱を噛ませる位置が、奥でも良し、中央でも良しと選択肢を持っている。

奥に五徳を追いやれば、手前から楽々と薪をくべられる。

それでいて焔を鍋に当てられる。

組み立ても簡単で、火床を押してみても歪みはそれほど無し。

収納も小さくまとまるので、移動も楽と文句なし。


















焚き火台を据えて設営は完了。

まだアルパカを出していないが、夕方の冷えを見てからでも遅くないだろう。

そこまでの酒量と、作業との格闘となるのは目に見えているが、そんなことも楽しめる余裕が自分にはあった。


















大袈裟だが我慢に我慢を重ねてヱビスを開栓。

アテには焼豚と辛子明太子。

陽だまりが下半身をふんわりと包み込んでくれる。












ヱビスにアテに陽だまりときたら、欲しいのは小説。

昭和57年、1982年増版の大藪春彦著「汚れた英雄」

丁度、40年前の文庫本だ。

紙は茶色く経年劣化し、あちこちに染みがある。

新聞配達のバイト代で手に入れたものだ。

思えば中学生でこの本に出会い、その後の生き方さえも変えてしまった作品。

こいつをヱビスとともに味わう。

懐かしい記憶が、頁を繰ると甦る。


















早起きとヱビスとの相乗効果でうつらうつらしていると、単気筒の低めな音が。

並列ツインのVストロームの音とは違う。

このバイクは違う人か…

幕から出てみると、赤白のホンダカラーのバイクに盛り沢山の荷物を載せた友がやってきた。

買い替えたのか…。

















設営を終えた友はプリンとスプーンを手に持つ。

温泉に行きたいからと、ノンアルコールプリンで乾杯。

やがて我慢が出来なくなった彼は、黒ラベルをプシュッとすることになるのだが。

温泉は明日だな。















友と来し方行く末なんかを訥々と話した。

何故だろう、話が深い方にいく。



それも毎回だ。



物事や事象に対して感じる思いをぶつけたくなる。

お互いに感性が絡み合うのか。

何回かこうして野や街で宴を交わしているが、無言の時間でも気にならなくなったのは初めてだった。

友は言う。

「自分はそんなに気になりませんよ」

人見知りの改善には、時間がかかるものだ。

















薪割りを終えると、これまた我慢出来ずに小割りを焚き火台に放りこんだ。

オリジナルとは違って火床に細いスリットが刻まれているので、火が育つのは早い。

かといってその穴が大き過ぎないために、灰で詰まれば熾は長持ちする。
















やりたかったのが、熱燗。

何かの祝いの席で開けようと思っていた、前回友からいただいた「福小町 角右衛門」

スムースな酒とは違って、荒々しく雑味も含んだ旨い酒だった。

五徳を渡して、その上に水を張った焚火缶を載せた。

その中にチロリをそっと。

五徳の高さを変えれば、丁度良いぬる燗を長い時間楽しめた。

次回はお猪口が要るな。

キャンプ道具ではないものばかりを欲しがる。
























相当に呑んだ。

底なしに呑んだ。

翌々日が早い出勤ではないことも、心を緩めた理由だろう。

それにも増して、純粋に会話が楽しかったのだ。

20時を過ぎる頃には、また魯を漕いで出航。

ストーブに火を入れることは無かった。






















爆睡とはこのことだろう。

7時まで寝てしまうとは。

夜勤もあるため、寝る前にアラームをセットする日常。

そこから解放された。

珈琲は豆から挽こう。

そうだ、灯油だけ入れて出番の無かったアルパカがある。

一年振りの火入れであったが、アルパカは黙々と仕事を始めてくれた。











カップ麺で腹を満たし、ガリガリと豆を挽く。

香りが幕内に充満した。

いい香りに、いい時間。

燃え残りの薪にも火をつけた。

放射冷却の朝に、足元の暖。

そしてチェアを持ち出した友の存在。

グローブをした手で、相手のマグを満たす。

















道の凍結具合を確かめながら、友は帰京。

片付けられるものから、少しずつ。

一品クルマに収めては、一服。

カトラリー類の渇き具合で、また少しずつコンテナに収めていった。














灰捨て場で始末した火床は、虹色に光っていた。






























  


Posted by 一輪駆動 at 15:04Comments(18)キャンプ

2022年10月22日

【1人が3人に、そしてまた1人に】





ルームミラーがオレンジ色に染まる、朝5:00。

早く家を出てきて良かった。

10度を下回ったこの早朝、体温で温まった毛布から出るのには勇気が要った。

街はまだ起き出してはおらず、24時間営業の店舗だけが眩しいくらいの光を放つ。

たまにしか乗らないクルマは、拗ねてアイドリングストップさえもしなくなった。

そろそろバッテリーも交換時期か。
















台風や前線の影響で雨の多い季節。

気温も下がり、暑くも寒くもない頃合いの時期だが、決まって休みは雨。

それにしてもこの10月は布団を干せる日が少なかった。

曇天や暗い雨が続くと、上げようにも気分は上がらない。

どこから飛んできたのか、庭の日陰では苔が青々と育っていた。
















大型トラックにも慣れ余裕が出てくると、俄然連休が欲しくなる。

しかし先の予定を組んで、蓋を開けてみたら雨というのも辛い。

濡れた幕を乾かす暇さえないからだ。

仕事で圏央道を走りながら、一週間後の天気に思いを馳せる。












休みを申請した金曜、土曜とも晴れ予報。

その見通しが立った瞬間、天気より先に大きく心が晴れた。

















R246はかなり混んでいた。

この時間でもこんなに交通量は多かったか。

いや、そんなことはかつて無かった。

知った道だが、グーグルマップに助けを求めてみる。

当初の所要時間より30分早いルートを示してきた。

30分も早いとは、どういうこと⁉︎

案内されたルートは車線1.5本分ほどの狭さで、朝の通勤車がビュンビュンと飛ばす道だった。












360度視界の開けた田園地帯。

左右とは田んぼを区切る様な畦道で接するが、その畦道から幾多のクルマが合流してくる。

朝の混む時間帯、みな少しでも早く目的地へ着く抜け道を探したのだろうな。

田んぼの間を等間隔で数珠繋ぎになっている車列を見て、なんだか不思議な光景に出会った気がした。

まるでフェスの入場ゲートの様な。












近隣住民しか知らないであろう細道を延々と走り座間市を抜けると、R246に戻った。

合流の右手本線では、トラックと乗用車の事故で緊急車輌のサイレンが回っていた。

これが渋滞の理由だったのか。

グーグルマップさん、疑ってごめん。

















野営地近くの店で薪を補充。

広葉樹を一束ちょうだい。

「久しぶりにいいお天気ですね」

ほんと、ここんところ雨続きでね。

「青空が出ると気分が晴れますよね」

自分と同じこと思ってる。

やっぱりみんな晴れを待ち望んでいたんだ。
















少し高台になったところにサーカスを設営。

前回撤収時、からっからに乾燥とまではいかなかったためカビていないか心配だった。

ポールを立ち上げてぐるりと幕面を眺めるが、どうやら杞憂だった様だ。

周りの草地には朝露が光り、靴はたちまちびしょ濡れになった。
























テーブルとイスを出して、山並みに向かいヱビスを開戦、いや開栓。

まっ、開戦でも間違いではないか。

チーズ竹輪と辛子明太子をアテに、雲の流れに目を細める。

転職も無事済み、ステップアップの大型免許も取得し、大型運行にも慣れ、いっときの安定感を得る。

イレギュラーを好む性質だが、こなしたその先の安心感は計り知れない。



















悪友がやってきた。

会うのが半年ぶりのため機関銃の如く会話が始まった。

「長い話になりまっせ」となかなか先を急がせてはくれない。

奥様お手製のおでんを、これも数年ぶりの使用だという鍋で温めた。




















ホクホクのちくわぶを頬張りながら、バイクカスタムの話、仕事の話等々で盛り上がった。

彼はお茶に、こちらは今日11杯目の焼酎割りで。

出汁の効いたおでんは、優しく、そしてバランスの良い、タマラン味わいだった。

10度近辺の野営地にも、熱々のおでんは丁度良かった。

それにしても悪友の営業力には舌を巻く。

話振りで頭の中に絵が描ける、そして笑いがある。

こちらは売り込みをかけられたお得意さんになった気分だった。


「残念ですが、今回は見送りという形で…。次回に向けて鋭意検討させていただきます…w」





















そして川で洗濯…、いや川にキャンプに来たお爺さんは眠くなってしまったのでした…

段々と口数が少なくなり、相槌ばかりとなり、そして野山に居るのに船を漕ぐ。























3:30

顔の冷たさで起きた。

EVAマットの上でゴロリと寝返りをうつと、幕の入口が開けっぱなしだった。

反対側ではスカートがバサバサと音を立てて踊っていた。

そういや昨晩、悪友を送り出した後で、「まだまだ10月、いけるやろ」と一応は冷えについて考えたことを思い出した。
しかし酔っ払いのこと。

全開放で寝てしまったのだ。

温度計は12度。

夜中は強風で、顔の上を12度の風が通り過ぎていたらしい。

あくまでも想像ではあるが。















一服して幕を出ると、空は濃いグレー。

撮影は望めぬと諦めたと同時に腹がクーッと一鳴きした。

昨晩、あれほどまでにおでんに舌鼓を打ち、満腹と満足で寝に入ったというのに。

自分の燃費の悪さとエンゲル係数の高さに辟易する。

昨晩の夕飯用で買ってあり残っていたローソンホルモン鍋、トンカツ弁当を朝から、それも5時から喰らう。



やはり酒のつまみは晩酌のお供に。

弁当は昼の空きっ腹に。



当たり前のことをしみじみと噛み締めた。























焚き火を堪能していると、昨晩帰った悪友がまたサイトへ来訪。

YAMAHA Grand Majesty250のカスタムポイントを実機を触りながら話す。

凝り性やこだわりポイントがお互いに結び付くと話は止まらない。















珈琲を淹れてくれるというので眺めていたら、モンカフェみたいな、カップを渡してのせる四角いフィルターに、自宅からの珈琲粉を匙で掬って入れていた。

大変だったろうなあ…、自宅でモンカフェの中身の粉を出してフィルターだけ持ってきたんか…と思い聞くと、


「こんなん売ってるんですゼ」と、


Kaldiの空フィルターの袋を見せてくれた。

自宅でこじって粉を出している姿を想像していたものだから大笑い。

ヲッサンは新しいモノに疎いな。

だが珈琲は間違いなく旨かった。


















酷使を重ねたポコグリルは、天板のヤレで地面へ落ち、ボットングリルとなってしまった。

思えばこの子とも何度旅をしたことか。

長野、静岡、山梨、神奈川、群馬、福島、栃木、宮城、山形、秋田、岩手…。

道具を使い込み、手入れをして慈しむ。

命は無いのに、寿命を迎えた焚火台を前にいくばくかの寂しさが過ぎる。























遠くからエキゾーストノートが響くと思ったら、ゴールドがポイントポイントに散りばめられたHONDA Gromが視界に入った。

もしやあのGromはK君のでは⁉︎

やはりこの野営地で出会ったK君だった。

イスを持参し、2人が3人になった。

近況やらバイクやらキャンプやら、また様々なことを話し楽しんだ。




















悪友にしても、こちらのK君にしても、とにかく話が上手い。

この2人と話していると、頭の中でイメージした世界での共感や共通点を得られるため、とても面白い。










温泉に詳しいK君から情報を得られたので帰り道の途中の温泉に寄って帰ろう。

秋田の友とのキャンプ後もそうだったが、3人が1人となって、帰り道は寂寥感でいっぱいとなってしまった。

これでキャンプが終わってしまう寂しさなのか…。

友と別れる寂しさなのか…。










ソロもいいし、デュオやコラボもまた楽しい。

キャンプを通しての繋がりに感謝して、涙を拭いてw前を向くとしよう。






















  


Posted by 一輪駆動 at 21:43Comments(22)キャンプ

2022年08月24日

【大型トラックでキャンプへ そんなアホな…】






イトしいひと、イトしい野やま…


最近になってアマプラに加入し、ロードオブザリングを見返したので、ついついゴラム口調になってしまう…







毎週月曜に出るシフトをよくよく見ると、火曜は夜中から昼終わり、そして水曜は休み、それで木曜は昼からの仕事。

こんなチャンスは滅多にない。

ならば出かけるしかないでしょう、野山に。














8月頭に鮫洲にて大型の免許を交付された。

業務をこなしながら並行しての教習所通い。

予約が取れずに何度もキャンセル待ちをして、3時間待っても良き結果が得られずバイクで自宅へ戻る日々が続いた。
















昨年10月以来に、野遊びの支度を始める。



あらー、クルマにガソリン入ってない…

そもそもバッテリー上がってエンジンかからないのでは⁉︎

燃料ついでにガソリンバーナーのタンクも空に近い…

あっ、紙パックの焼酎もなし…

LEDランタンの充電もやたらと長くかかる…

一眼レフのバッテリーもエンプティ…

いかんいかん、キンドルも充電しておかないと…















心は野への渇望で満タンだが、道具類はすべてからっきし。

準備リストなぞ無いので、野での夕から朝への生活を思い出しながら、場面場面で必要な物を準備し、電力を必要とする物は早く満充電になるものからコンセントに繋いでいく。

頭の中は忙しいし、手足もフル稼働。

でもたまらなくタマランのだ。
















昼からの出撃では、時間を有意義に使いたい。

贅沢だが首都高K7→東名高速→圏央道を使い、時間を買うとする。

普段も業務で東名を使うが、午後いちには大和トンネル渋滞は4キロ程度に減っている。

しかし今日という今日に限って、海老名ー港北PA16キロ渋滞…。

どうして…。












全長12mの大型トラックに比べ、ハッスル君は3.4mと1/4の大きさなのに、久しぶりに乗ると視界が狭くて怖い。

不思議な感覚だが、着座位置の高さと4つのミラー、バックモニターが成せる技だろう。

先輩からは出来るだけサイドミラーで後方を確認する様に教えを受けた。

それと降車しての目視。

新しいことを始めると、今まで知らなかった世界を覗くことが出来る。

それがとても嬉しい。
















野営地はガラガラだった。

気温は30℃。

湿度が高く、コンテナを下ろしただけで汗が噴き出てきた。

早速の水分補給と参りますか。


















ハンモックを吊って、一番搾り。








タープを張って、黒ラベル。







あ〜あ、腰を落ち着けた時には、ビールの在庫ゼロ。








ハンモックをイス代わりに、コンテナをテーブル代わりに。

随分とものぐさになったものだ。












タンブラーに氷を入れるためにグロウラーの蓋を開けると、上部3つくらいの氷が塊に。

ラムネ瓶の様に内側からしっかりと蓋をされてしまった。

仕方なく常温で焼酎をいただく。

ぬるい焼酎はより暑さを感じる。













アテはカニ風味かまぼこと明太子。





かまぼこを一列食べたら、下にもう一列あった。

なんだか得した気分。














夕方まではモーリス・ルブランの奇岩城、暗くなってからは沢木耕太郎の深夜特急を貪り読む。

特に後者、貧乏バックパッカーが訪れる、街の匂い、人熱、食べ物の味、人間模様…、それらが手に取る様に伝わってくる。












薪は準備したが、暑過ぎる。

火をつける勇気が出ない。

涼しさが増した20時。

焚き火熱よりも睡魔が勝り、ハンモックにもつれる様に飛び込んだ。

ソロを始めてから、焚き火の無いキャンプは初めてかもしれない。



























早い時間にハンモックに入ってしまったものだから、起床は安定の4時。

どうやら蝉より早起き出来た様だ。

朝の一杯の水とタバコで目を覚ましていると、やはり30分後、ミンミンゼミの一匹が鳴き始めた。

負けじとアブラゼミが唱和する。

そこに乗るようにクマゼミとツクツクホウシがメロディを奏でていた。

やや、一際哀愁を帯びたメロディを紡ぐのは、ヒグラシ。

圧倒されるほどの音量と重なり合う旋律は、バリ島のケチャを思い起こさせ、精神世界の真っ只中にいる様だった。














すると無性にプリンが食べたくなり、クーラーから取り出した。

糖分を摂ったら満足して、精神世界の話は吹っ飛んでいった。















カップヌードルカレー大と珈琲3杯は忘れずに。

サイトに落ちた爪楊枝やネギを拾い、痕跡は残さず撤収。













帰路は往きの半分の時間で戻れた。

駐車場にクルマを入れ、荷物を玄関に運びこんでいると、手に針が刺さった様なチクリとした痛みが。

キーホルダーの輪っかがまた緩んだか、と思って掌を見ると、そこには緑の物体。

慌てて電気をつけてみると、それは体長13cmはあろうかと思われるカマキリだった。




















  


Posted by 一輪駆動 at 18:39Comments(28)ソロキャンプ

2021年10月25日

【しみじみと、焔の温かみを、そして自然の懐の深さを知る】






カーラジオから流れる昔聴いたヒットソング。

懐かしさで聴き入った。

この歳になるまで音楽とはメロディ重視だった。

この詩がいいよね、との声をよく耳にしたが、その頃は詩はあまり頭に入ってこなかった。

50過ぎでの挑戦。

今は切ないほどに詩が心に沁みる。
















約3ヶ月振りとなる野遊び。

雨上がりのアスファルトには水蒸気が立ち昇っていた。

急激に気温が上がり始め、降った雨はまた大気に戻り吸い込まれていく。
























寒い。

この仕事を始めて7kg痩せた。

友人は言う。

脂肪は暖かいよ、と。

筋力はついたが、不要な脂肪が落ちた分、直に肌が寒さを感じる様だ。
















土日のホームの混雑状況は知っていた。

予約を取らないため、朝イチの並び順に入場となる。

8時の開門のはるか手前、6時に到着したが、既に6台並んでいた。

昨晩19時に仕事を終えて、朝3時起きで来たのに。
















開門まで1時間を切り、谷に陽が差し込んできた。

この瞬間が好きだ。

暗く物の影が僅かに確認出来るところへ、一筋の光が葉を照らす。

段々と周囲の樹々にも光りが当たり始め、懐かしき景色が顔を出す。

帰ってきた。

やっと、ここへ。
















今日は一番好きな果物、梨をいただく野遊びにしようと思っていた。

スーパーでの買い出しの余裕も無く、途中のコンビニで済ます。

梨はあるにはあったが、ひと玉398円。

これはムリだ。

コンビニの店頭に座布団に乗り誇らしげに飾ってあったが、諦めるとする。

















橋の上からサイトを望むと、金張りの方々も結構おり、朝の段階で3割のサイトが埋まっていた。

冷えた車内で時間を持て余していると、以前にもこんな情景があったと思い出した。

そうだ、木曽の山桃キャンプだ。

あれは4月か5月か。

真っ暗な山中はやたらと冷えた。

チェックインまでの数時間、クルマの中でシュラフに潜り込んでいた。

フロントウィンドー越しに、少しずつ山桃が姿を現す。

明けの山桃も、それは見事なものだった。























ここにしよう。

明日帰宅して早く寝ないと仕事に支障を来たすため、サイトはサーカスTCDXで簡易に収めよう。






シンプルに。






野での暮らしだけを楽しむために。
















朝3時から何も食っていない。

食っていないのに、設営もしていないのにグビッと。

まだ陽はサイトまで届かず、ヱビスの冷たさが脳天に刺激をもたらす。

やはり野でのヱビスは格別だ。


























一口の麦酒は途端に胃を刺激する。

炒飯&出汁入り唐揚げ弁当。

最近のコンビニ弁当は痒いところをちゃんと掻いてくれる。

まるで孫の手の様に。






















思い切って来て良かった。

前日の雨や遅い時間での仕事終わり。

昨晩は何度も、「やっぱりやめとこうか…」との思いが去来した。

しかし自分で自分の背中を押して、サイトが確保出来るのかの心配を常に持ちながらでも、野に来てみれば有象無象は吹き飛んだ。


















何故だろう。

こんなにも自然に惹かれるのは。







峰々の稜線の温かさ。

密集して山肌を埋め尽くす樹木。

西から東へ流れる白い雲。

絶えることのない水の流れと音。

青い空を自由に舞う鳥たち。

変わらない大きな懐を持つ自然。




























これらの中にいると、ちっぽけな自分の存在に気づく。

日常で小さなことに駆けずり回り、小さなことに思い悩む。

野に山にイスを設え、ただ眺めながらボーっと時を過ごすと、肩の力は自然と抜け、身体の芯にエネルギーが溜まっていく気になるのだ。

















飲み惚けて肌寒いなと感じたのが14:30。

太陽は山の向こうに陰り、谷間のキャンプ場は一気に気温が下がった。

















ツマミはきんびら。

母の味を思い出す。

甘辛でシャキシャキの蓮根の歯応えが。





















もう我慢出来ん。

更にツマミを追加する。

味玉と焼豚。

もっと呑め!と言わんばかりのしょっぱさ。

やはり自分は、野で何かしら作るのは向いていない。

だって出来合いで十分に旨いのだもの。




















焚き火台を出し、朝から乾かした薪をくべる。

合わせてランタンにも灯油を1/3ほど入れておく。

飲み惚けてからではメンドくさくなってしまうのだ。

西に陽は傾き、辺りの照度を落とすとともに辺りの気温まで持っていく。

山はもう既に、長袖に上着の拵えが必要だった。

さて、火を入れるか。





















焔はいっとき燃え盛り、白炭と化した熾火は焔は上げずともしっかりと種火を蓄えてくれる。

その熾火に太めの薪をくべてあげれば、また元気を取り戻す。

最高だ。

酒を呑まずにはいられない。

まだそれほど呑んではいないのに、焚き火との相乗効果で悦に至る。

























まだ17時なのに、うとうとしだした。

なんとも気持ちのいい。

山間は陽も陰り、ランタンの灯りの美しさが際立ってきた。

酔いもあり、とてもいい気分になっていた。

昼間にシュラフと毛布を干しといて良かった。

熾火が収まれば、もう夢の中。

なんだろう、野遊びは楽しい。
















焚き火の焔の熱さを、額で、頬で感じる。

秋という季節ならでは。

日中は陽が照れば、温もりも感じよう。

陽が沈めば肌寒さも感じ、焔の温かみを求める。

膝前にある焚き火の焔に、身体の火照り、そして包み込まれるかの如く温もりをもらう。





















気がつけば、パック焼酎を一本開けてしまった。
























夜中は大変だった。

頭は枕の上にある筈なのに、グワラングワランと回転している。

どうやら飲み過ぎてしまった様だ。

フォールディングマットのうえに、身体を横たえた筈なのに、身体は宙を舞うかのよう。

これは飲み過ぎの証だ。

30分に一回くらいのペースでその波が襲い、寝られた気がしなかった。




















朝、目覚めとともに、頭の中はパチンコ玉が右へ左へと飛び交うほどの二日酔い。

50過ぎなのに、何という体たらく。

酒、もうやめようかと思った。

でも自分らしいと言えば、自分らしい。

また次の時も呑んでしまうんだろうな。



























  


Posted by 一輪駆動 at 17:54Comments(38)ソロキャンプ

2021年08月18日

【パピ子との別離】






小さなガラスボックスの中に君はいた。

駅前のデパート、6階のペットショップ。

トライカラーで額の白毛がくるんと曲がっていたのがチャームポイントだった。

探していたのは君だって、すぐに感じた。

京急線の一駅を、段ボール箱の中でピーピー言いながら家へ連れて帰った。

掌の上に乗るほどに小さい君。

家に着くと、知らない場所だからか不安そうにピーピー鳴いていた。

















パピヨンの女の子だから、パピ子。

その当時小さかった我が子が好きだったのが、アイスのパピコ。

シンプルだけどとっても気に入った名前だった。


















その頃一番落ち着いていたと思うのが、小さな舌でヤギミルクをぴちゃぴちゃと飲んでいる時。

「ヤギミー、飲む?」って聞くと、尻尾をふりふり。

何かしらお腹に入れてくれるとホッとしたのを覚えている。

















トイレの場所もすぐに覚えた。

待てやお手を覚えるのには時間がかかったな。

まだワンワンではなく、ミャーミャー鳴いていた。

















そのうち「さんぽ」って言葉を覚えた。

散歩用の黄色のヱビスバッグを持ち出すと、ケージの中で尻尾をふりふり散歩の期待に溢れていた。

ペットボトルに水を汲む段になると、嬉しくて待ちきれずに吠えていたっけ。

だから「散歩」って言葉を言わない様にして、家族内では行ってくるだとかパピ子に分からない言葉で暗号の様に会話をしていた。



















川の土手、神社、遠目の公園、若い頃はそこまで足を伸ばしていた。

玄関を出るまで排泄を我慢していた様で、外へ出て二、三歩すると屈んでいた。

おいおい、道の真ん中だってのに。

友だちが好きで、散歩中も見かけるとズンズンと寄っていった。

帰りもへこたれる事なく、元気に戻ってきた。






















まん丸のベッドに、まん丸になって寝るのがお気に入り。

脚から尻尾からすべてそこに収まるようにしているその姿が殊の外かわいくて。























なにしろ無駄吠えをしない子だった。

パピが鳴く時は、何かしらの理由があったから。






















仕事から帰ってくると、寄ってきて頭をズボンに擦り付ける姿に癒された。

撫でる時は、「パピ、ゴシゴシしていい?」と聞いてから。

その声を聞くと、安心した様子で身体の力を抜いていた。



















シャンプーをする時は、じっと耐えていた。

「いつ終わるの?」って表情でこちらの顔を伺ってたっけ。

お風呂で排泄しちゃいけないと思っていたらしく、脱衣所に戻ると気持ちよさそうにおしっこをしていた。

後始末が大変なんだ。





















舌の先をチョロリと出すのがかわいくて。

この時は何故かウィンクまでしてくれた。


























大好きな散歩も家の周囲をぐるっと回るのが精一杯になってきた。

玄関で待てずに排泄してしまう事が増えてきた。

食べない時は心配だった。

サプリや缶詰を用意して、なんとか食べてもらおうと努力した。

















パピ用のキャリーカートを用意した。

歩けなくても外の空気を感じられるように。

目が段々と白く濁ってくるとともに、見えなくなっている様だった。

壁に頭をぶつける事が増えた。






















三階で寝る様になった。

夜中に騒いだり、吠えたりが多くなった。

目が見えなくなったから、行き止まりでもがくと吠える。

この頃から、反時計周りにひたすらぐるぐると回り続ける様になった。



















三階のどちらの部屋でも状況は変わらず、ヒトが寝られない日々が続いた。

夜間は一階、日中は三階で過ごすことになった。

建具にぶつかって行き場がないと吠えるので、段ボールで囲う様にして角をなくした。




















目が見えないので、ごはんや水の容器に何度も足が入ってしまい、部屋はその足跡でいっぱいになった。

仕事から帰宅すると、まずはその足跡をきれいに拭くのが日課となった。






そんな時、ついつい怒っちゃった。

自分に余裕がなく、目が見えないからしょうがないのに、怒っちゃった。

ごめんなさい、パピ子。























自力で立ち上がれないことが増えてきた。

肉球に当たる毛を切っても、それは変わらなかった。

何度も立ちあがろうとトライして叶わないと吠える。

それが夜中にも起きる様になった。












家族はギリギリの状態だった。

家族内で言い合いにもなった。

でもそれはすべてパピを想うからこそ。

























2021年8月13日19:00 パピ子永眠 16歳7ヶ月


























パピヨンの寿命、14年を大幅に超える時間を共に過ごした。

大好きな家族の一員が欠けてしまった。

目の前からいなくなる、もうこの手で撫でることも出来ない、ただただその事がとても悲しくて。















一緒に暮らした16年、どれほどの愛をもらったか。

あなたからもらったすべてに感謝します。

ありがとう、パピ。

またどこかで会おう。

































  


Posted by 一輪駆動 at 19:44Comments(50)野に出ない時