【野遊びとは、トランス状態にいざなうものなのか】

一輪駆動

2024年02月09日 18:01






静かだ。

とても静かだ。

営地に立っているのは自分一人。

遠く半原山の尾根近くではピーヒョロロと鳴きながら悠々と旋回するトンビ。

山あいの北斜面は白く彩られ、降った雪の多さを感じさせた。

いつもの鷺が水中を睨みながら、水面50cmの低空飛行。

メシにはありつけたかな。

雲は幾重にも重なり、時折日差しを隠す。

気温9度。




一体にして、今、時は流れているのだろうか。























風も止むと、目の前のススキの横揺れは収まった。

動くはせせらぎの白波ばかり。

波頭で湧き立つ泡をしばらく見惚れていた。

そうだ、幕を建てよう。





























エコなんちゃらや省エネなんちゃらと謳ったクルマのリアウィンドウのステッカー、これが前々から嫌だった。

もうちょいデザインを考えて欲しい。

これらステッカーが貼られることを前提としたクルマのデザインではないからだ。

自宅でドライヤーとスクレイパーでこそぎ落とした。

やはりシンプルな方が好みだ。





















ランタンを持ち出すと、先ずはメンテ。

空気孔が多く、少しでも風が強いと消えてしまうレイルロードランタン。

新しいビニールテープで再度巻き直す。
























大雪警報に関東地方が揺れた日。

高速道は早々と通行止となり、同僚からは苦情たらたらだった。

営地へ向かうR246。

大山や遠く道志の山並みには薄らと雪化粧が望めた。






























焚き火の焔を見つめていると、同じく刻の流れは止まる。

風の入り方、風向き、薪のくべ方、そうした火を絶やさずにおきたいという思いが、観察、工夫を呼ぶ。



他のものが見えなくなり、集中する。


そのうちに耳からの音もなくなる。



風がある時は、その向きに薪の隙間を作ると火吹き棒の出番もなし。

そして少量の薪で十分な暖を得る。

風が無い時は、薪と薪とを少しの間隔をもって並列に組み、火と火を互いに呼び込むように組む。

どちらかの焔が消えても、また相方から焔のきっかけをもらえる。

橙色の焔の揺れは何故これほどまでに魅力的なのであろうか。

気がつくと1時間が軽く経っていた。

























酒も相当に入っている。

焔のうつろいと酒の効果で、軽いトランス状態に落ちている自分に気づく。

自然の中で暮らす醍醐味もあれば、焚き火の焔と酒で酔う夜もある。





見上げると、この地にしては珍しいくらいの星が瞬いていた。

カシオペア座にオリオン座、冬の大三角に北極星…。

あとは勉強不足にて分からず。

大気を洗浄してくれたのは、あれほど忌み嫌っていた雪や雨だった。

























夕方、シュフのシェフのクルマが営地へ静々と入ってきた。

幕横に停めて、先ずは挨拶。

そして今夜のご馳走、「おでん」を幕内へと運び入れる。

テーブルでは餅巾着の仕込み。

小さなジップロックに楊枝が整然と収まっていた。




もしかしてA型でしょ⁉︎

「典型的なO型!」

なぬっ、儂と同じだと⁉︎

自分には微塵もない几帳面さに目を丸くした。


















別のジップロックには出汁がたぷんたぷんと。

具材と出汁はザルで分けたの?

「いいえ、菜箸で一つずつw 具材が崩れるでしょ」

やはりA型ではないのか。

自分なら下にボウルを置いたザルで漉しそう。

見事に具材がボロボロになって泣きを見るのだろうが。

ちくわぶだか大根だか分からんようになっとる!





















初めてかもしれない。

厚揚げやさつま揚げ等の練り物がこれほど旨いと思ったのは。

「練り物が魚の旨味を出して、今度は出汁を吸ってくれるの」

ほほー、毛細血管現象か⁉︎

いや、見当違いだろうな。

そしてすじ、昆布、牛すじ串、はんぺん、等々を一つずつ口に運ぶ度に唸った。

ぐぬぬっ、適切な言葉が浮かばぬが、とてつもなく旨い!


















久しぶりに連休を取ると、営地に連泊したくなる。

寝て起きて撤収、という算段から逃れられるのも大きいし、中日の夜明け前から麦酒をプシュッとできることもある。



そんな中日を過ごしていると、ふと「なんだろう、この感覚…」と感じる時が訪れるのだ。



設営してその日を愉しんだ翌朝、朝メシをかっこんだ辺りから不思議な心持ちになリ始める。

刻の流れがゆったりなのもそうさせるのだろう。






俺は都会で仕事をしている奴なのか。

それとも自然の中で時に翻弄されながらも生きる喜びを享受している奴なのか。




そんな酩酊状態というかトランス状態に陥るのだ。

これがとても気持ちが良く、ふわふわとした感じなのだ。

俺の本当の居場所はどこなのだ?



























建材薪は水分含有量が多いため爆ぜる。

もちろん安価であることで、懐への影響度は広葉樹薪とは雲泥の差。

ブチブチッ、パチパチッ、バチンとずっと囀っている。

どこかの新築現場で、採寸し丸鋸で割った後の残り物だろう。




爆ぜた欠片でダウンにもブーツにも焦げができた。

「あ〜あ、ダウンはまた補修パッチで直すとしても、欠品の中でやっと手に入れたワークマンブーツ、この焦げ穴から水が入ってしまう」と以前は感じていた様に思う。

でももしいつも使っている大事なkeenに穴が開いていたとしたら…。

決してワークマンブーツを大事にしていない訳ではない。

諦めとは違う、物事を良き様に捉える術に助けられる場面は多い様に思う。

これも普段の心の持ち様に大いに左右されるところであり、出来るならばその心持ちで過ごしていきたい。




























今朝、シュフのシェフのアドバイス通り、凍っていた出汁を1.5倍に希釈して、塩をひとつまみ入れてみた。

沸いてきたら餅巾着を煮て、頃合いで同じく凍っていた具材+出た出汁を投入。

忙しく写真も撮りながら、一口目をすすると…




かっ、完璧!!




煮詰まった感はなく、出汁の新鮮さはそのままに塩気も感じられた。


「出汁を1.5倍希釈に、塩をひとつまみ」


経験から生じる知恵。

そのアドバイスは驚くほど的確だった。

出汁に練り物から出たエキスが渾然一体となったお味は、もう言葉では言い表せない複雑さと極楽浄土を感じさせた。

感無量、至極、極み、素材から生み出される出汁というものの素晴らしさ…





















野遊びはどのように時間を使っても良い。

何をしても良い。

迷惑にさえならなければ。

ずっと焔を見つめていても良いし、腹が減ったらオピネルを出してくれば良い。

星が見たかったら昼寝をして、25:00に広角レンズを持ち出して構えれば良い。




















まったりとした時間の流れにのほほんと乗っかるのも良し、そしてそれを愉しみつつも何かしら考えている。


決して忙しくではなく。


焚き火の焔のこと、気象条件のこと、腹や喉の乾き具合や、時折りプライベートや仕事のこと。

まったりとした時間に、やりたい事をのんびりと考える。


そうした自分自身のトランス状態に、ひたすら酔う。


考える時間を何かしらの制限なく出来るのが、野遊びの愉しみのまた一面かと思う。





















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