せっかくなので見頃の花桃を愛でに散歩に出かける。
ふかふかの絨毯の様な苔の丘を歩く。
一歩一歩、靴の底は僅かに地面に沈む。
靴底から伝わる柔らかい感触。
9:00。
目の栄養をふんだんにいただいた後は、自分の腹にも栄養補給を。
何しろ蕎麦が食べたい。
長野はやはり蕎麦。
この時間に蕎麦を食わせてくれる店は無いだろうか。
そうだ、妻籠宿がほど近い。
ランタンやらバーナー類をテント内に収納してからシートベルトを締める。
公営の駐車場に入れ、編笠を被った管理のオッチャンに、旨くて、尚且つ今開いている蕎麦屋の情報を聞く。
「それなら俵屋里久かねー、なあ」
と、後ろの2人目のオッチャンにも同意を求めている。
「あー、里久なら今開いとるわ」
2人目のオッチャンも完全同意。
お礼を伝えて、国道から少し上がった旧街道沿いの妻籠宿へ足を向ける。
薄暗く軒がくっつきそうになる板塀と板塀の間を抜けると、蕎麦「俵屋里久」はあった。
壁に貼ってある「ざるそばと御幣餅」にしてみよう。
五平餅と書くのかと思っていたが、小判型からきた御幣なのか。
蕎麦は腰があって艶やかで、あっという間にペロリ。
旨し、とても旨し。
続けて御幣餅をクニュっと一口。
歯応えと甘過ぎないクルミ味噌がほど良い香ばしさで口の中を満たす。
旨し、やたらと旨し。
満足感の高い朝食でヲッサンは自然とふやけ顔に。
蕎麦湯で締めて、妻籠宿を散策。
馬籠宿は行ったことがあるが、こちらは初めて。
坂の多い馬籠宿と違い、妻籠宿はなだらかだった。
旧街道の街並みにうっとりと酔う。
温泉へと向かう道中で何やら空に輝くものが。
虹だ。
それも横一線の虹。
弧を描いていない虹には初めて会った。
どうやら環水平アークと呼ぶものらしい。
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環水平アークとは、大気光学現象の一種で、太陽の下46度の水平線上の薄雲に虹色の光の帯が見えるもの。水平弧、水平環 とも呼ばれる。大気中の氷晶に太陽光が屈折して起こるもので、太陽高度が58°以上の時にしか出現しない。
(wikipediaより引用させていただきました)
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温泉はとろとろ、ぬるぬるの湯。
アルカリ性単純温泉
身体に薄皮を一枚貼った湯上り感。
石鹸を流しても流してもいつまでも落ちない、そんな感覚にさせる湯。
良し、非常に良し。
野の家に戻ると、妻籠で購入した野沢菜の漬物を開ける。
途中スーパーに、お目当てのヱビス限定復刻醸造があった。
予算オーバーは目に見えているが、買わずにはおれない。
プシュ、ウヘ〜!タマラン!
たまり醤油を使った昔ながらの味。
エグいくらいの野沢菜に、苦み走った復刻ヱビス。
合う、セットで販売してもいいくらいに合う。
あまりのステキなコラボに、もう少しだけビールが呑みたくなった。
クーラー内にはチューハイはあるが、麦系は無し。
ビールは欲しいが、スーパー帰りの花見渋滞は勘弁願いたい。
管理棟に行って、おばちゃんに聞いてみる。
「こんなのお飲みになる?」
冷蔵庫から出てきたのはスーパードライの500ml。
「裏を見てみて。切れてるかもしれないから」
缶底を見ると消費期限は2019年4月。
今じゃん。
「売り物にならないから持ってって」
いやいや、それは出来ない。
売り物にならないなら、ご自分でお呑みになったら。
「わたし呑まないから、天ぷら揚げる時に使うしかないの」
見ればもう一本のスーパードライも期限は今月。
では二本貰うので、いくらか取ってくださいな。
「では、そこまで言うなら200円頂ける?」
わらしべ長者には続きがあった。
腰のある蕎麦、
横一線の虹に、
とろとろ湯、
そして二本の500ml缶が200円。
一番のご褒美は、おばちゃんとの出会いかもしれない。
翁との出会い、また来年もあるかもしれない。