橋に差し掛かると、自分の目を疑った。
8:30の開場を1時間超前にした6:55。
車列、そして車列。
数えてみると、28台。
先頭車の前には看板。
「10時のチェックアウト後に、空きがあれば入場できます」
ホームはこんな状況だった。
最後尾に並んでもいいのだが、順番が回ってきた時に入場不可の可能性もある。
それが昼頃だとしたら、もう行き場はなくなる。
UターンをかましてR413から林道へハンドルを切った。
いつもはクルマが殆ど通らないその1車線の林道も、すれ違いに気を遣うほど。
野営だな、今日は。
トランクには水もある。
あそこにするか、はたまたそちらにするか。
若葉のトンネルをくぐり抜けながら第一候補地に到達。
しかしその林道への入口には車止めが渡されていた。
災害復旧工事とあり、土を盛ったダンプが入っていく。
あの野営地ならば、渓へ向けてこんな風に張って、と設営イメージは出来ていたのに。
取らぬ狸の皮算用。
それならばと第二候補地へと向かう。
同じ渓の下流側。
同じ轍は踏まぬと、カメラだけを持って下見を行った。
広い河原には黒のDoDワンポールを張った若者グループ。
反対側の林間も隈なく営地を探す。
ハンモックを吊りたいのだ。
朝の8時では地面まで陽は届かない。
暗い雰囲気に、少し躊躇いの気持ちが生じていた。
よし、ここにしよう!とはどうにもならないのだ。
しかしこの砂防堰堤の上流域は、足元の土をパラパラと落としながら降るかなりの傾斜。
止む無し。
ここで、いいか。
クルマへ戻り、さてバッグパックはどこだ…⁉︎
広くもない車内で、いくら探しても見つからない。
んっ、前回降ろしてそのままか…⁉︎
まずい、バッグパック無しで野営は厳しい。
野営さえも諦めなくてはダメか…。
シーズンオフでアルパカストーブも降ろしたので、アルパカバッグは使えない。
ビニール袋に道具を詰めて、何回も往復するか…
日常の仕事で筋肉痛の身体にそれはキツい。
あったあった、キャンプ買い出し用のエコバッグが。
でもハンモック、アンダーブラケット、タープを入れたらいっぱいだ。
他にないか、入れ物になるものは?
これはどうだ⁉︎
ゴミ箱として使っているワットノットの手提げ。
こちらに道具類を移し、エコバッグには食材等を入れて運ぼう。
両手に大きなバッグを提げて渓へ降りていく。
まるでコストコ帰りのお父さん。
時刻は9:30を過ぎ、深い森にも陽が入ってきた。
下見時には、鬱蒼としていてどこか惹かれなかった地が、陽の角度が変わってからは木漏れ日劇場へと様変わりしていた。
横に渓が走り、ハンモックポイントとなる樹々も多い。
いいぞ、この雰囲気。
勝手なヲッサン。
5m間隔の樹を見つけ、ハンモックに乗った時の眺望も考え、リッジラインを渡す。
昼頃、一時雨の予報もあるため、風対策としてタープは低めに張った。
3×3タープのカイト張り。
イスとしても使うため、同じくハンモックも低めに。
そして足元にはエコバッグとゴミ箱バッグ。
さて始めるか。
ヱビスを売っていないコンビニがあるとは。
ラストのコンビニでの買い出しだったため、今日は黒ラベル。
プシュッ!
グビグビ、ゴクリ、ゴクンゴクン…
身体を動かした後のビールは旨い。
は〜、生き返るわ。
アテはチーカマと韓国海苔。
読み物は、Number誌「松山英樹マスターズ優勝特集」
日本人初、アジア人初の快挙。
抜きん出た「個」が「チーム松山」の声に耳を傾けて、コース上でのミスショットにも柔和な笑顔に繋がった、とあった。
この域でのメンタルコントロールは想像を絶する。
ただただ素晴らしい。
下見の時だけカメラを持って降りた。
野営道具以外に2kgの荷物が増えるのはキツい。
だから幕営以降は、全てスマホカメラ。
どこにもピントが合い過ぎて、撮る楽しみを見出すのが難しい。
撮影散歩は諦め、せせらぎを背にしてハンモックに横たわる。
地面には焼酎割りのタンブラー。
寝ながらにして左手を伸ばせば、そこには酒。
大沢在昌著「新宿鮫 暗躍領域」をむさぼり読みながら、チーカマを齧り、焼酎割りで流し込む。
せせらぎの水が砕ける音をベースに、そこへ鳥や蛙の声が被さる。
それ以外に音は無し。
木漏れ日が無くなったと思った途端、ポツポツと来た。
遠くのバーベキューファミリーは泡を食った様子で片付けをしていた。
野営の天敵、山ビルはまだ姿を見せない。
鹿の証拠はあったが。
流石に腹が減り、15時におやつならぬ海苔弁当を喰らう。
ちくわの天ぷらは、海苔弁当には必須なのだろうか。
自分にとり、このコラボは値千金。
朝が早い仕事のため、夜は21時に寝る習慣がついた。
まだ18時だが、酒の勢いもあってかひたすら眠い。
シュラフに入ろう。
夜中の見回り。
見上げれば満天の星。
撮れないと思い込んでいて、スマホを向ける事はしなかった。
「路上駐車をしている運転手さん、至急クルマを動かしてください!」
最後のタープを畳んでいる時に、遠くから聞こえたこのアナウンス。
慌ててタープを糸巻きの様にくるくると巻き、山道を駆け登りクルマに戻った。
昨日は一台だったのに、今朝は道幅が広くなっているところ以外にも車列。
これがあのアナウンスの理由か。
野営の最後は動悸と息切れで終了。
また少し自然と近づけただろうか。
宣言が出る前の野営記事です。