【35歳。初めてのバイクでドキドキキャンプツーリング】

一輪駆動

2021年06月20日 19:43






昨晩は寝られなかった。

共通一次試験の前夜、いや違う。

運転免許の卒検の前夜、ここまでではない。

初めての就職面接、緊張はしたが種類が違う。




















18歳で野営の醍醐味に目覚め、びしょびしょになりながらも自然の真っ只中に暮らすという面白さを知ってしまったあの時。










そして大きな道具でファミキャンを、仕事の様に、そして馬車馬の様に設営からメシ作りからやっていたあの時。

焚き火すら余裕が無く出来なかった。











初ソロキャンプ。












その時を迎えた。

子どもは大きくなり、仕事も落ち着き、家族はそれぞれの楽しみに向かっていいとなったあの時。

クルマは持っていないが、バイクだったらある。





行けるか⁉︎

行ってみよう‼︎












キャンプツーリングでの一番の悩み。

それはどれほどのキャンプ道具を積み込めるか、というもの。

リヤにはトップボックスを付けてある。

そこに入るものとしては、寝袋、マット類は無理。

購入した食材を収める程度か。

シュラフ類は、シート下のスペースを使おう。

じゃあ、この時を見越して準備したDoDのライダーズバイクインテント、銀マット、SOTOのバーナー、ボンベ、アルミの山クッカー、マグ、調味料はどうする?







積めるトコロ無いわ。








そこで買ったのが、ライダーの着座位置とトップボックスの間に挟み込んで、収納力も高い、タナックスモトフィズのキャンピングシートバッグ。

通常59L、サイドを拡張すれば75Lまでいけるものだ。

これを持ってしても、大事なビールを運ぶソフトクーラーは入らなかった。
























しがらみから逃れて、一人の時間を野で過ごせると分かった時から緊張が増した。

いざやってみれば、これほどの自由な刻は無いって気付いたのに。

でも、最初は時間を自由に使っていいという、その采配に近い感覚を自分の中で持て余していた。



















行き先はどうする?

少しでも温暖な地がいいと、アクアラインを渡った千葉に決めた。

房総半島の先っぽにはいいキャンプ場が数多あるが、道具で相当に重くなったバイクで、そこまでの距離を走る自信が無い。

何しろアクアラインの高低差でびびっている高所恐怖症だから。
















目的地は巷でよく聞く、森のまきばオートキャンプ場とした。

アクアラインを過ぎたら30分程度の立地。













浮島から地下へ潜るアクアラインの海底部分。

追越車線は120kmで飛ばすクルマが追い抜いていく。

その時の風圧は、左へ左へとバイクを持って行く。

あまりに重くなったバイクは、微妙な、今までに感じた事のない振動を、手に腰に伝えてきた。

タンデムならこれくらいの感覚でしょ、と自分を落ち着かせようとするが、一人乗りで慣れた身には、挙動の大きさに震えた。














買い出しはココと決めていたスーパーは、開店30分前。

予定より飛ばしていたのか。

いや、早く家を出過ぎたのだ。

本当は開店時間に到着する筈だったのに。

カートを引いて買い物に来たおばあさんは、日課の様にベンチに座り、景色を眺めていた。


















「そーな、荷物バイクに積んで、なにしに来たか⁉︎」

キャンプをするんですよ。

「キャンプ⁉︎ それ言ったら、ウチらなんか毎日キャンプみたいなもんよ」

羨ましいですわ。

「なーに、なんも羨ましがるこた無い。なんもないところだあ」

それがいいんだよな、こちらからすると。




















さあ、初めてのキャンプ場受付。

受付のおばさんは、毎日の日課なんだろう。

早口で事務的で、こちらは益々緊張した。

















前夜の雨で湿った牧場跡の黒土は、バイクの前輪を轍へ轍へと誘い込む。

滑ってバランスを崩し、コケそうになるもなんとか逆ハンを切って体勢を立て直す。

緩やかな斜面を登り切って、この地の頂上まで来た。

眺望も開けていて、陽が当たるのも早く地面は乾き始めていた。









ここにしよう。










ブルーシートを敷いて、その上にワンタッチテントを紐を引っ張り展開した。

おー、ラクチン!

ペグなぞ持ってきてないので、裏山へ分け入り石を探して四隅をおさえた。

道具もバッグから出して、鹿番長のテーブルに並べたら、やる事がなくなった。

えー、ソロキャンプってやることが無い!







なんだコレ。

時間を持て余してしまう。
















止む無く、キャンプ場を歩いて散策。

ものの40分もあれば全体像を掴めるくらい歩き回れてしまう。

















なら、昼だけど呑も!

呑兵衛キャンパーのスタートはここだった。

時間を潰すために呑む。

酒は昔から好きだったが、時間を持て余して呑むというのは、初めての体験だった。


















40%オフと480円の売れ残りステーキも買ってあった。

腹はそれほど空いていないが、バーナーとクッカーも使ってみたい。

オレンジのメッシュネットから、小振りな四角いフライパンを出し、SOTOの310も脚を広げる。

油もニンニクも無い。

あるのはワンボトルになった塩胡椒だけ。

焦げ付かせながらもステーキを焼き、塩胡椒を振った。

ナイフなぞ持ってなかったから、割り箸で肉を挟み齧り付く。

前日の売れ残りアンガス牛は、とてもとても硬かった。

噛みちぎれない。

でも、とても満足感が高かった。















内側から口の中に広がる肉汁が殊の外旨かった。

アルミパンだから、肉はすぐ冷める。

つけ麺の様に、肉の残りをフライパンにジューと当てて食べたっけ。
















メシも食って腹も満たされた。

結構、呑んでアルコールレベルもかなり上がっていた。











でも、することがない。

まだ17時。













近くのキャンパーのサイトには、燦々とガソリンランタンの灯りがともり、低い場所には焚き火が焔を上げていた。

焚き火というものをしてみたい。

心の奥底からそう思った。


















焚き火台なんて知らなかったから、持ってもいないし。

受付へ出向く。

焚き火がしたいんだが、何か借りられないだろうか?と。

「それならこのBBQグリルでは⁉︎」

足の高い、10cmくらいの炭置き場のあるグリルを指差して言った。

なんか違うんだよな…

そうだ、あの灰捨て場にあった一斗缶を借りられませんか?

「えー、いいですけど、焚き火出来ないと思いますよ…」

いいです、いいです、何とかやってみますんで。



















サイトへその一斗缶を持って戻り、一緒に買った薪を放り込む。

SOTOのチャッカーで端っこに火を当てるが着かない。

そりゃそうだ。

小割りにもしてもいない薪に火が着く訳がない。

知らないものだから、SOTOのガスが無くなるまで、カチャカチャやっていた。

11月末の冷え込み始めた牧場跡。

結局、火は着かず、焚き火は出来なかった。

寒い思いをしながら、諦めて幕内に入った。
















あ〜、まだ20時。

時間がいっぱい残ってる。

当時は真剣にそう思っていた。

ソロキャンプって、やる事ないじゃん!って。

その頃は、文庫本も持って行っていなかった。

ソフトクーラーにぎゅうぎゅうに詰めていった酒類はすべて空。

もう寝るしかやる事なくなった。



























20:30に寝れば、当然の早起き、4:10。

前日の雨が嘘の様な好天になりそう。

星はいくつか瞬いていた。

二度寝をして5:30。

辺りは薄ぼんやりと明るくなってきた。

静かだ、とても。

ドッグランの向こう側から、新しい陽が顔を出した。












なんだろう、この清々しい朝の始まりは。

ファミキャンでもこういった日々はあった筈なのに。

起きるのは大抵陽が昇ってから。

この時間を知らなかった。

こんなにも心が晴れ晴れとする時間があったとは。








それからだ。










夜の焚き火時間も好きだが、早起きして一日の始まりを味わう様になったのは。































ソロキャンプの最初の日を思い起こしながら書いてみました。

皆さんにも、かつてこんな日があったのではないでしょうか。


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