(キャンプエッセイです。登場人物、場所、ギアはすべてフィクションです)
新しい職場、新しい街にも慣れてきた。
そこが上手く回りだすと、とりあえず生活のベースが出来た気がした。
朝、カーテンの隙間から差し込む光と鳥の囀りで起きるのは気持ちがいい。
あれはキビタキかな。
鳴き声に特徴がある。
そして余裕が少し生まれると、考え始めるのはやはりキャンプの事。
同じ課で隣りの席の優奈がキャンプ連れてけって煩いんだ。
いっこ下のキャピキャピちゃん。
ゆるキャン見て影響されたみたい。
スクーターで行きたいんですよね、と免許も持ってないのに気分だけはリンちゃん。
でも正直なところここまで職場に溶け込めて、実はホッとしていた。
2人でキャンプ行くのはなんだかな…、なので課長にも声をかけて4人で行くことにした。
もう一人は課長の長男くん。
課長からは、家族でキャンプに行ってきたとの話を前に聞いた事があった。
神割崎、とことん山、不動尊、ほとりの遊び場…
この辺りから行きやすいキャンプ場。
ネットでは見たことあるけど、行ったことのないスポットばかり。
課長はそれならほとりの遊び場にしようと大乗り気だった。
湖畔沿いの絶景を堪能させるわ!、とまるで自分の庭の様な言いぶりだった。
ファミキャンで鳴らした腕を披露してくれるって。
3人の予定が合った土日。
仙台支社は休める土曜が多い。
こんなところは転勤のメリットだった。
土曜の朝、7時にハイツ前まで課長が迎えに来てくれた。
雲ひとつない透き通る青空。
外の通りに黒の四角いクルマが停車していた。
ワックスがけもバッチリで、青空がボンネットに映り込んでいた。
えっ、レンジローバー乗ってんの⁉︎
やるなあ、課長。
助手席のチャイルドシートには6歳の武くんが座り、優奈は後席にいた。
「おはようございます!」
真っ先に挨拶したのは武。
躾がしっかりしてるわ。
「悪いな、ウチの武、景色が見えないとすぐクルマ酔いしちゃうんだよ」
「課長、今日はよろしくお願いします」
「杉山さん、おはようございまーす」
優奈は今時のトレッキングスタイルで全身を覆っていた。
まるで雑誌の見開き広告のまま。
ハマったらとことんのタイプだな。
途中、山道に入ってから武の気分が悪くなり、2回ほど休んでペンション脇の小道に乗り入れた。
真っ先にクルマから降りた優奈は、見事な湖畔の景色に見惚れていた。
「湖越しの二つの山、あれの左側が磐梯山」
何度か来た事のある課長は、ガイドさながらに説明し出した。
うっとりしていた優奈が呟いた。
「こんなところがあるんだ。最高のキャンプ場ですね!課長」
英太はきょろきょろと見回してはみたが、あるべき建物が見当たらない。
「課長、ここはどこで受付するんですか?」
「んっ、ここはな、管理棟も無いんだ。強いて言えばあのオールが置いてあるタープが受付かな」
「でも誰もいませんよ」
「んっ、大丈夫。電話して勝手に張っといていいと言われてる」
「へ〜、課長、常連なんですね」
「違う、違う。ここではみんなそうなんだ」
敷地内を歩いてみた。
それほど広い訳ではないが、丁度敷地の真ん中辺りに湖に対して半島の様に突き出た場所が見つかった。
「ねえ、パパ、ここにしよ!」
武の一言に皆、頷いていた。
二本の樹に挟まれて額縁の様に磐梯山を望めるスポット。
武、なかなかやるな。
審美眼を持ってるじゃんか。
課長はヘリノックスのサンセットチェアを自分用に、武にはグランドチェアを組み立てた。
優奈はA-liteのメイフライ。
俺はサーマレストにあぐら座り。
流石に銀マットは棚に収まっていた。
課長は何よりも酒好きだから、YETYのクーラーからオレンジジュースと黒ラベルを出してきた。
「えっ、課長、設営前からいっちゃうんですか?」
「硬いこと言うな、一本だけだ。呑まずにはいられないだろうよ!この景色では。杉山は何がいい?」
クーラーにはビールの缶がいっぱい詰まっていた。
しばらく絶景を眺めつつ、いただいたキンキンに冷えたビールで喉を潤しお喋りを楽しんだ。
今度はイス買わなきゃダメだな。
武にでさえも視線は上向き。
「そろそろ設営始めるか」
課長の音頭で、各々荷物へ向かっていった。
優奈はモンベル・ムーンライト3。
どこまでリンちゃんオマージュ⁉︎
課長が手伝ってあげている。
だって俺にはムリ。
そうだ、俺のデビューの時は奈緒さんが手伝ってくれたんだった。