【刻が止まった瞬間】

一輪駆動

2021年02月06日 12:25






昨日、仕事でバイクに乗り神楽坂で信号待ちをしていた。

時刻は午後2:30。

目の前は外堀通りへと繋がる細い下り坂。

角度のない日差しが建物の大きな影を作る。

向こう側には大きな大学病院が聳えていた。

場所的にも時間的にも人通りは多い。

食事を終え、残り半日をどう割り振るかを考える人々。

スーツ姿で小脇に書類を抱えた人。

ハイヒールをカッカッと鳴らして、営業先に向かう女性。

大きな荷物を台車に載せて運ぶ人。

ベビーカーを押す母親。

ビニール袋いっぱいの空き缶を自転車に満載の人。















もうすぐこちらの信号が青に変わるという時。

左手から視覚障害をお持ちの方が、白杖で点字ブロックを確かめながら交差点に差し掛かろうとしていた。

こちらの信号は青に変わっていた。

でもその彼は交差点を渡ろうとし出した。

周囲の人々は一斉にこちらの細道に目を向けてくる。







信号変わったからバイク来るよ!って。

危ない!って。






でも誰一人としてその彼に声をかけるとか、何かしらアクションを起こすのは躊躇われたみたいだった。

もし逆の立場だったとしても行動を起こせたかは自信が無い。
















渡らせてあげようと、バイクのハンドルグリップから手を離し、両足を地面につけてどっしり構えた。

渡るのを見守っているよという姿でいたら、周囲の人たちが今度は視覚障害の方に視線を移した。

会話をしていた人たちも皆口をつぐんだ。

交差点が何故だか静けさに包まれた。
















無事、渡り切った後、もちろん彼は何が起こっているかが分からないので、そのまままたブロックを突いて確かめながら歩き去っていった。

今度はこちらに視線が戻ってきた。

皆さんの協力もあったから、軽く会釈をしてゆっくりと交差点に入っていった。

心なしか、その場に居た人々の肩の力が少し抜けていた気がした。
















こちらは青信号に変わっていたのに、後ろで信号待ちをしていたクルマの方々、よくクラクションを鳴らさなかったな。

忙しいだろうに。

一分一秒を争っている最中だろうに。

下り坂だったから、目の前で起こっている事が分かっていたのかな。




















忙しない秒単位で動く都会の喧騒の中、こんな刻が止まる瞬間があってもいいじゃない。




























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