落ち葉が積もって足を持っていかれやすい斜面を、樹につかまって登っていく。
灌木のたわみは心許ない。
晩秋の森は焚き木には事欠かないのだ。
頃合いの枝を見つけては、パラコードで束ねる。
気温は下がってきているのに、汗ばむ。
焚き木の束を肩へ背負って営地へ降りる。
ケースから出した麻紐をほぐす。
ファイアスチールのマグネシウムを少しばかり削って、ナイフの背で擦る。
何度か火花が散った後で、湿った焚き木にも火が回る。
鹿の鳴き声を遠くに聞いた。
育った火に水を半分ほど浸した焚火缶をくべる。
両手を擦りながら、火にかざしいっときの暖を得る。
時折、消えそうになる火に火吹き棒で喝を入れ、湯が沸くのを待つ。
焙煎した珈琲豆をミルに入れ、かじかむ手でハンドルを回す。
口の端には、お気に入りのセブンスターを咥え、タバコの煙りにやられた目を綿ジャケットの袖口で擦る。
琺瑯マグに中目に砕いた粉を入れ、ぽこぽこと泡立つ湯をゆっくりと注ぎ込む。
表面に浮いた粉を吹いて遠ざけながら、一口啜る。
熱い液体が喉を通り、食道を刺激する。
樹々から舞い落ちる赤味が映える落葉が、足元を彩る。
まだ若かりし頃は、こんな手間のかかる遊びに面白味を覚えていたものだ。
ボンベを使うバーナーを使うようになり、冬場の着火に手こずった挙句、ガソリンバーナーに手を出した。
触るだけで体温を持っていかれるガソリンボトル。
2月の朝のポンピングは、この行為そのものが楽しいのだと言えない厳しさを感じた。
この歳になってから、便利さばかり求めだした気がする。
野山遊びでは不自由さを楽しんでいたというのに。
そろそろいいだろう。
アルコールストーブ。
注いだ燃料を使い切らなきゃ、とか、灯油で統一したい燃料事情から手を出し渋っていたアルコールストーブ。
触手が動いたのは、Pathfinderのデザインにもあったのかもしれない。
本体はねじ込み式の蓋により、燃料を入れたままでも運べる。
五徳兼風防は、運搬時は本体下から差し込む。
使用時は上からかしめて、そこそこの高さと風除けになる。
工夫とデザイン、ここにやられたのだろう。
店舗より持ち帰って開封してみる。
ふむふむ、思っていた通りのデザイン、質感。
カチャカチャと五徳を外したり、上にグッとつけてみたり。
この穴から炎が出るのか…、と繁々と眺めていると気づいた。
半分の穴には板らしきものが覗いていた。
アルコールストーブは初体験のため、こういうものかとも思った。
でも、なんだかコレ、おかしくないか⁉︎
アルスト縛りでキャンプをやろうと意気込んでいた。
ところが散々呑み散らかして、その事をすっかり忘れていた。
燃料用アルコールをボトルから注ぎ、マッチで火をつけてみる。
軽いボッという音がして引火した。
真ん中で少しばかりメラメラと燃え、次第に周囲の穴から本燃焼の炎が出てきた。
しかしいくら待てども、半分の穴からは炎が出てこない。
開封時の不安は当たったのだ。
後日、店舗へ出向き点火時の事情を説明すると、同じく穴を繁々と見つめ塞がっている事を確認。
しかしデザインが気に入っている当方としては、店舗在庫に良品があればそれとの交換をお願いした。
裏の倉庫を巡って戻ってきた店員さんは、頭を下げながら全て同じ症状でした、との報告。
この部分、同じ人が担当したんだろうね、と2人で苦笑い。
止む無く、evernewのチタンアルストと十字チタンゴトクと交換。
返金処理の際、店舗オリジナルのシェラカップが添えられていた。
第二次アルスト縛り選手権の当日。
アルストとは思えない高火力で、チップが焦げる勢いでチーズは燻製されるは、寒い朝に珈琲の湯はすぐに沸くわで、アルストのソコヂカラを知った。
消えた炎の後に残ったのは、キレイなチタンの焼き色だった。