始まりは夏の高地だった。
標高は高いのに暑いくらい。
脱いだスウェットをシュラフのフード部分に折り込む様にして寝た。
キレイに畳んだつもりでも、腕部分の二重になった部分は、寝ている時に不快さでしかなかった。
枕など野遊びには不要、そう思っていた。
中坊の頃、自転車で訪れた田舎町。
バス停にかけられた小さな屋根の下で、シュラフなんかもなく熟睡していたではないか。
もちろん朝起きると身体は固くなっていたが、そんなもんだと思っていた。
野宿旅とはそういうもの。
シュラフなぞ買えるお金もなく、あるのは余りある体力だけであった。
近くのおばちゃんが朝どれキュウリを差し入れてくれたっけ。
その水分が喉の渇きを癒してくれた。
時を経て、インフレータブルピローなるものが世の中に出回り始めた。
仕舞いが小さくなることに目をつけ、試してみた。
中央に窪みがあり、後頭部がそこへ収まった。
やはりスウェットとは違う。
吹き込む空気量を加減して、パンパン過ぎでもなく、ペシャンコ過ぎでもなく、といういい頃合いを探していたっけ。
このピローは底面がつるつるのため、何処までも滑って上がっていってしまう。
寝ている時、上がっていく枕を頭が追いかけて、朝起きると半身芝生の上なんて事もあった。
その枕も酷使の末、少しずつ空気が漏れる様になった。
寝る前にこれ以上吹き込めないくらいにパンパンにしておき、寝相の悪さとの格闘のあげく、起きる頃には半分の高さに空気は減っていた。
それでも使い続けていたが、夜パンパン、朝ペシャンコとなってはじめて、棚に常駐となった。
使えないのに、捨てられない。
たまに取り出して眺めると、数々の野営の思い出が蘇ってくるためだ。
そんな道具がいっぱいある。
しばし枕を探していたが、その間は元通りスウェットを丸めたもの。
そんな矢先、知人から教わった。
いい枕があると。
THERMARESTコンプレッシブルピロー
同社製のインフレータブルマットに使ったフォームの余剰材の切れ端を集めたものが中に入っている。
一辺30mmほどの立方体のフォームがごろごろと。
手元に来た時は、触ってみてチトゴツゴツするのではと感じた。
ところが営地で昼から伸ばした状態で置いておくと、空気を吸って膨らむ。
それにピロー自体の生地が滑りにくいものなので、下に敷いてあるインフレータブルマットに程よく食いつく。
寝心地も柔らか過ぎず、固くも無く、頭を横に向ければ中のフォームがその通りに形を変えてくれた。
これでピローを追いかけて寝ながら幕内を彷徨う事も無くなった。
収納は端から丸めていって、最後にポケットに差し込む。
熟睡できるって素晴らしいことなんだな、とこのピローを使ってみて感じた。