【道具譚 mont-bell U.L.COMFORT SYSTEM PAD CAMP38 180】

一輪駆動

2021年01月16日 12:48






身体中が痛くて起きた。

流石に小さな石ころだらけの渓流沿いでは、無理もある。

初冬を迎えた山中は、午前4時頃にマイナス気温に突入していた。

拓馬は腰をさすりながら、幕の入口のジッパーを上げた。

よく噛むな、このジッパー。

冷えと身体の痛さに悲鳴を上げているというのに、更に追い討ちをかけられた気分になる。

しかし目に飛び込んできたのは、川面にキラキラと反射する太陽光。

こんな些細な事で気分は持ち直した。

銀マットもそろそろ卒業か。
















拓馬は仕事帰りに郊外のアウトドアショップに立ち寄った。

階段を登った2階がキャンプコーナー。

中央にはスノピの大型幕が展示され、家族連れが中のチェアに座っていた。

聞くともなく聞こえてきたのは、「家族分揃えたら、結構な額になるね」

そうなのだ。

自分の思うサイトを作ろうとすると、初期投資は半端ない。

それを揃えたからといって終わりではなく、実はそこが沼の入口。

それにしても混んでるな。

物色している様子を眺めると、これから始める人が多い様だ。
















そこだけ原色ギラギラですぐに目についた。

シュラフ、マット、シュラフカバーが棚に整然と並べてあった。

シュラフもしっかりしたものが欲しいが、そこはまだ我慢のしどころ。

拓馬は欲望を抑えるのに必死だった。

欲しいものは山ほどあるが、先ずは身体の痛みが出ないマット探しだ。

視線をシュラフ棚から無理矢理外した。




サーマレスト、イスカ、モンベル…

EVAフォーム…

インフレータブル…

銀マット…
















横を通った店員を呼び止め、聞いてみた。

その彼は山屋さんの格好をして物腰が柔らかそうだったからだ。

これみよがしに商品説明をされるのは苦手。

彼はそんなタイプには見えなかった。

「お探しのものなら一度試されます?そこのアライテントの中に、インフレータブルのものとEVAタイプのものと敷いてありますよ」

拓馬はコンバースを脱いで、幕内に入ってみた。

空気が入れられたイエローのマットの角には、




mont-bell U.L.COMFORT SYSTEM PAD CAMP38 180




との表記があった。

ゆっくりと寝転んでみた。

なんだ、これは。

柔らか過ぎず、かと言ってパンパンに固い訳でもない。

こんなに快適なのか。

寝返りを打ってみると、肩から腰までの線に合わせて、程よく沈む。

いいなあ、これ。

長さも180cmある。

畳むのは、丸めて直径10cm強か。

EVAフォームマットには目もくれず、拓馬はレジに並んでいた。
















電車内ではチラチラ見られた気がした。

その人たちもキャンパーなのかな。

翌日、拓馬の姿は道志の森最奥にあった。

アフリカツインのエンジンを止め、メットを脱ぐのももどかしく幕をちゃっちゃと建てた。

どうだ、やっぱり銀マットとは違うか⁉︎





















外側のビニールを取りしぼめてあるロックを解き、平らに伸ばしてみた。

勝手に空気を吸い込み、どんどんと膨らんできた。

膨らみは途中で止まり、後は注入口から息を吹き込んだ。

よっこらせと、そっとお尻から寝転んでみた。

まだガキん時に、浮き輪へダイブして穴を開けたのがトラウマで、どうしても空気ものはそっと乗ってしまう。





ホホーイ!こりゃいいや!





拓馬はマットに頬を擦り付けた。




インフレータブルマット

mont-bell U.L.COMFORT SYSTEM PAD CAMP38 180








これこそが沼の始まりだった。
























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