【課長 大庭幸徳 愚痴る夜】
(エッセイです。実在の人物、店舗とは一切関係がありません。大庭幸徳は杉山英太の上司です)
雨が予想されるキャンプに行ける心持ちではない。
そう、今は。
杉山英太、藤崎奈緒から迸る若さをもらったブナの森の晩。
大庭幸徳は連絡を取ってみた、悪友に。
キャンプではなく、陸呑みでも良いかと。
マスクをして街へ繰り出す。
人出はコロナ禍以前の状態。
マスクの位置を確かめて、待ち合わせ場所へ向かう。
悪友は迷うことなく一軒の酒場を指差した。
刺身が殊の外旨い店。
なのに300円均一なのだ。
間も無くウチの倅も小学校生活を終える。
塾だなんだと出ていくものは増えていく時期だ。
サカナの炙った皮が旨い。
ビールジョッキは瞬く間に空となっていく。
さて今日は何軒のハシゴとなるか。
勘定が済むと、腰から取り出したα6300で夜の街を切り取る悪友。
雨のそぼふる街に選んだのはSigma 35mm f/1.4。
きらびやかなネオン管は、川面さえも彩る。
「ハイボール、いける口⁉︎」
「行きたくなる口」
暖色の照明に沈むシートに座るやいなや、メガハイボールを注文。
大庭は詰まった今の心境を吐露した。
口を挟むことなく、頷く悪友。
商売柄、会話のポイントを知り尽くした悪友は、語る時、聞き入る時のメリハリが絶妙。
履き馴染んだジーンズの如く、心地良さと時間を相手に提供した。
パズルがハマっていく感覚。
ひとしきり話して落ち着いた大庭は、話題が転ずると聞き役にポジションを入れ替えた。
最短撮影距離40cmを誇るフルサイズ換算50mmで、チーズやクラッカーの印影から、怪しく光る街並みまで捉えてニヤケていた。
生粋のカメラバカとは話が尽きない。
メガを数杯開けた頃、河岸を変えた。
終電の囁きが聞こえる頃にドアを開けた店は、壁一面にアメリカのいい時代を飾り立てていた。
スコッチ、バーボン、ウォッカ、ラムにテキーラと、魅惑的な文字列だけのメニュー。
使い込んだ木のテーブルには、意匠を凝らしたカットグラスに浮かぶ丸氷さえも映し出す。
17:00を開始とした悪友との時間も間も無く終わろうとしていた。
次は焚き火を囲みながらの再会を約束して。
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