2018年12月10日
【決まりきった殻から抜け出して】-10章-
会議はいつもの通り、議題は行きつ戻りつ。
新宿副都心の高層ビルの53Fで繰り広げられる会議はいつもこんな調子だ。
役員でもある佐々木慎一郎は苛立つ様子も見せず、迎えのハイヤーの後席に身を任せた。
肘掛けのボックスからセブンスターとジッポを取り上げた時、
銀座のクラブで帰りがけに専務取締役から言われた一言が頭をよぎった。
「前から言おうとは思っとんたんだが…、
君の立場でライターが安物では、
自らが格を下げているようなものだよ。
遠慮せずにこれを使いなさい」
こうしてテーブルに置かれたのが、ガラスの天板に重厚感ある音を響かせたダンヒルのガスライターだった。
ライター一つで人間としての格が決まるだと。