風まかせのハンモッカー

現地の天候はマイナス２度。雪予報。

太平洋岸で低気圧が発達しているらしい。

バンドックの安マットにモンベル#２ではチトキツいか。

コンパクトで保温できるもの…

snugpakのジャングル・ブランケットをザックに取り付ける。










勝沼ICを６時に出る。

スモールライトを消す頃に気付いた。

フルーツラインにはコンビニに出会う事が無いのだ。

今夜は直火の炎を眺めながらバーボンをロックで呑もうと思ったのに。







行き道からは外れるが、塩山駅近辺にはある様だ。

かなりの高低差がある坂道を降りながら、見やると谷底に横に広がる街。その駅そばのコンビニでロックアイスを仕入れた。




出来上がった唐揚げをケースに並べる作業に夢中だったおばちゃんは、なかなかこちらに気が付かない。

唐揚げも数種類あって、覚えるのも大変だ。

声をかけようかと思った瞬間に視線が合った。

相当に恐縮した素振りでレジに戻り、「大変お待たせしました。ホントにすみません」

こうくると、待たされはしたがこちらの気分も変わる。

袋はいいですよ。

コンビニを出て、息がやけに白いと思ったらマイナス１度だった。







コンビニからクルマを出そうとすると、ヘルメットを被ってユニホームを着たチャリの野球少年たちが右手から来た。

当然こちらはクルマを停めて待つが、その少年たちそれぞれが会釈を返すのだ。

中学校の野球部で学んだのか、親御さんの育て方なのか。

人を気持ち良くさせてくれると、それを誰かに渡したくなる。







精肉店のトラックは、こんなにも早い時間に中華料理屋へ商品を納入。

鍵を預かっているのか、慣れた手つきで外側から開けていた。









二車線の道路が幅員を狭くする頃、一の瀬高原へ向かう林道に行き当たった。

《土砂崩れのため通行禁止》の看板。

そうだった、オーナーからメールもらってたんだっけ。

自分の風まかせ振りに嫌になりながら、Uターン。









受付前の水溜りは、きれいな波紋を浮かび上がらせていた。

風と気温が深く絡んで織りなす作品。















アーリーをつけて、９時にクルマのトランクを開けた。

両肩を地面に引っ張られるかの如く、バッグパックは肩に突き刺さる。








キャンプ場の西側に当たる第三エリアにkohshiさん、うち。さんのポーランド軍幕が二張りある筈だ。

ラインにはそうあった。

そう、今日はブロ友のうち。さんとの初顔合わせなのだ。

以前の嬬恋でブッシュクラフトを楽しんでらしたkohshiさんから誘われて、訪れた一の瀬高原キャンプ場。

どうせなら、うち。さんには自分の来訪を伏せてサプライズにしませんか︎とお願いしておいた。






落ち葉の絨毯を踏みしめるカサカサ音と所々黒さを濃くする曇天の空が、寒さを一層引き立てる。






駐車場すぐに外国の方が幕を張っていた。

サイト前には太い枝に挟まれた、大量の薪がログラックの様に積まれていた。

興味をそそる。






すみませんが、写真いただいてもよろしいですか？

「◯△□@☆€#︎」

どうやらいいようだ。

表情と身振りでしか分からなかったが。








その後、撮影やクルマに物を取りに行く度に、目が合うとお互いに、

Hi！だの  Enjoy！  だのと、声を掛け合っていた。

明るいな。






バーボンを取りに行った時には、

「Oh,  Jimbeam！」

と、声をかけられ、世界で一番好きなの、コレ！

とハチャメチャ英語で答えておくと、

「Nice kentucky whiskey！Enjoy！」

あれっ、バーボンって言わないんだ…







小さな橋を渡っていくとちょっとした登りになった。

霜柱を踏み抜く度に、身体は左右に揺れた。

背中のランタンはカラビナに当たり、軽い金属音を発する。








一つ尾根を越え盆地の様な陣地に至った。

見渡しても人っ子ひとり見当たらない。



おかしいな。



ブッシュクラフトやるなら最奥だろうと踏んで、盆地を越えて歩む。

しかし最奥の手前には立ち入り禁止の札が見えた。






このエリアにはヒトの気配はしない。

もしや中止︎⁉︎

しかしその内容のラインは来ていなかったと思い返す。

もしや今夜はこの森の中でソロ︎⁉︎

なんて悲しい結末を先に予想して、本当にそうなった時の備えとする。

グルの気持ちで来て、突然ソロはキツい。







切り株にザックを降ろしたその時だった。



ピーーーーーッ！！



という、甲高いホイッスルの様な音が森にこだました。

大袈裟でなく、自分の身体は地表から10cmは浮いていたと思う。

それくらい驚いた。






咄嗟に手で顔を覆ったが、音のした方角を腕の隙間から覗き見る。

すると右側の稜線伝いに、20頭弱の鹿が全員同じ格好をしてこちらを見下ろしていた。

身体は稜線方向、首だけみんな右倣え右で。

鳴き声にびっくりさせられたくせに、その軍隊かマスゲームの如く一糸乱れぬ姿に笑ってしまった。






ふと思い起こすと、仮にソロならこの鹿の四世帯住宅の横で一人で寝る事になるのか。

一頭ならまだしも、20頭に全方位から攻められたらひとたまりも無いな。

殺陣の様に次の刺客は順番待ちをしてくれないだろうから。






そんな時代劇シーンを真面目にイメージしながらパップを張り終えると、大きな声が聞こえてきた。

「オメー…」

「コレ、ツレー！」

尾根から姿を見せたのは、４人の男たちだった。

70Lのデカいザックを背中に、冬装備のモフモフの格好をしていた。






片手に10kgのテンマク薪ストーブMを提げた方が、うち。さんだった。

一瞬にして物腰の柔らかさが伝わる微笑み。

まだ会話さえしていないのに、全身に穏やかさが滲み出ていた。

その後からは、嬬恋出会い系のkohshiさん、迅雷さん、masatoshiさんの３人が続く。








出会いのお約束、固い握手を交わす。

そして設営前から、到着の儀、再会の儀、はじめましての儀、プシュッと乾杯を執り行う。

ぐびぐび、ぐびぐび…

恐らく全員が缶の半分以上、喉に流し込んだ筈だ。











kohshiさんはポーランド幕3を、三股の枝ポールで吊り下げ、中にチタン製薪ストーブを仕込む。














うち。さんは新幕フィンローバーを、味わいのある長い枝で高く持ち上げる。

テンマク薪ストーブもサイドに組み立てる。

















迅雷さんはポーランド幕3を二股の枝で吊り下げ、フロントを簡便に閉じられる様に工夫し、中にSHO'Sの薪ストーブを。










masatoshiさんはポーランド幕2を、中に二股で建てる。

中には同じくSHO'Sの薪ストーブを。











んっ、薪ストーブを持ってないの、俺だけ︎⁉︎

つーか、熱源無いのも、俺だけ︎⁉︎













そこからは４人が薪ストーブ&ポーランド幕の営業マンに変身し、その良さを言葉を尽くして売り込みに徹しておられた。

どうやら強烈に感化されてしまった様だ。

予算の都合もあり、まず実現するのはワークマンの防寒ブーツになりそうだが。








４人がそれぞれハンドアックス、ノコ、ナイフを駆使して、折れ枝から自在にモノを作っていた。

ランタンスタンドしかり、幕用ポールしかり、トライポッドしかり…

丸太で組まれたサークルの中に、大きな竃を拵えた。

５人それぞれが山へ分け入り、なるべく乾いていそうな折れ枝をずりずりと枯れ葉の上を引きずっては、ノコを引き、ハンドアックスで小割りにする。




















分け入った筈のmasatoshiさんが30分経っても戻ってこない。

クルマの傍は携帯の電波があるので、そこでお客さんに電話をかけているのだろうと話していた。

仕事を抱えてキャンプに来たと話していたからだ。





50分経っても戻ってこない。

おいおい、これはおかしいだろう？

電話にしちゃ長過ぎる。

１時間が経った頃、ヘロヘロになったmasatoshiさんが稜線から降りてきた。






「危うく遭難でしたよ。鹿を追いかけてたら、帰り道見失っちゃって…」

一同、ゔぇ〜〜〜！！






無事に戻って来られて、ホント良かった。

事件はこの遭難未遂だけではなかった。








ブッシュクラフターでもあり四川料理人、いやどんな種類の料理でもOKのkohshiさんが、焚き火深皿フライパンを自然の四つ口コンロの上で豪快に振るう。

メニュー第１番手は、麻婆豆腐焼きそば。

舌から、食道から、胃までアツアツに沸騰させてくれる劇旨料理。

全員の体温が３度は上がり、眉間にはシワが寄っていた。

怒っているわけではない、辛くて旨いのがそうさせるのだ。











お次のメニューは玉子が優しいもの。

頬張ったヲッサンたちが口々に、

「優しい、優しい」

と言うのが何だかとても面白かった。







うち。さんは鶏鍋。

ヲッサンたちは、またもや

「優しい、もっと優しい」を連発。





迅雷さんからは出汁の染みたおでんが。

「温まるね。う〜ん、染みてるね」






masatoshiさんからはエビチリ。

プリップリの海老が、より一層ビールを進ませてヲッサンたちを奈落の底に引きずり落とす。









ひとしきり、それもあっという間に平らげて、満腹タヌキオヤジになったメンバーは、呑みタイムへとシフトした。

設営時から呑んでいるから、シフトでもないか。

辺りは漆黒の闇。

中心の大焚き火が、下に燠を蓄えて、安定した炎となっていた。

「まだ18:30なのにね」











この頃には徹夜明けで現地へ向かったためか、安定した眠気が後から後から押し寄せてきた。






そんな眠気が覚めたのが、アルミニウム事件が起こった時。




あぁぁぁ〜〜〜〜！




見るや、kohshiさんが焼きそばが焦げ付いたDUGアルミ缶のフタを、そばを焼き切ろうとして焚き火の上に置いておいたのだが、そのフタに吸い口が出来上がってしまった。

フタに吸い口など要らないのに。

そう、アルミが溶けたのである。

大焚き火の中心部は600度以上あった様だ。

溶鉱炉焚き火、恐るべし。

これが２番目の事件発生であった。







８時には会話する口が動かなくなり、１人鎮火。

ジャングル・ブランケットにくるまり、秒速で夢の世界へ。











２時。

１回目のトイレタイム。

それほどの冷えを感じない。

焚き火と麻婆豆腐で芯から温まったからか。

空は雲多し。







４時半。

２回目のトイレタイム。

幕から出たら、鹿の鳴き声より驚いた。








これぞ、満天の星空。

さきほどよりも確実に冷えている。

マイナス１度。

予報通りか。

ISO、WB、SSの数値を変えては、色々試してみる。

ふと隣りを見やると、うち。さんがシュラフに潜ったまま星空撮影。

フィンローバーはコレをする為に買ったのかw

オープンタープの新たな活用法。

ヲッサンは応用が利く。














20時から寝ているから、もう眠気はない。

コーヒーが沸かせる時間になるまで、シュラフ内でkindleを読み耽る。














うち。さん温度計によると、明け方はマイナス５度まで下がったらしい。

朝食は薪ストーブで鶏鍋和風出汁&締めに雑炊、鶏鍋中華スープ&締めにうどん。

何という朝メシ。

うめー！しか言葉が出ない。

それも焚き火調理で。

ヲッサンの拘りは海よりも深いのだ。











撤収を済ますと、それぞれの方と固い握手を交わし、クルマへ向かう。

皆さん、ありがとうございました。

途轍もなく楽しい日を過ごせました。







外国の方たちも撤収作業を進めていた。

クルマまで行き着き、リヤハッチを開けて、ザックから元のコンテナにギアを戻していた。

お隣りのクルマの後ろにデカい鉄鍋と共に錆び錆びのアンモケースとオリーブドラブのアンモケースが２個置かれた。

あまりのモノホン振りと存在感のあるアンモケースに視線が釘付けとなってしまい、思わず話しかけた。




コレ、ホンモノデスカ︎

「◯△□@☆€#︎」





シブイッスネー！

「◯△□@☆€#︎」





するとその外国の方、オリーブドラブのアンモケースを持ち上げ、赤錆のアンモケースに未使用の炭を移し替えた。

何をするのだろう︎⁉︎

と思って見ていると、





「Gift for you.」





ハアッ？？？？？？

そんなつもりはないので、遠慮しとく旨を、片言の単語を羅列してお断りする。





事情が飲み込めずにボーゼンとしていると、そのアンモケースを我が胸に押し付けてくる。

えっ、あげるって事︎⁉︎

「◯△□@☆€#︎」

どうやら、（俺らもタダで手に入れたものだから、オメーにくれてやるよ！また貰えるしな！）といった意味合いらしい。





そこまで言うのなら、有り難く頂戴するとする。

これ以上、断りを続けるとへんな空気になりそうだ。

日本式に深々とお辞儀をしながら、両手でいただく。

あい あぷりしえーと ふぉー ゆあ ぷれしゃす ぎふと！

ブッシュクラフトキャンプが高笑いやニヤニヤ笑いで終了した後に、何故かモノホンアンモケースがクルマのトランクに。


















狐につままれた、とても不思議なキャンプだった。

まっ、鹿につつかれるよりはいいだろう。